あなたは「離婚式」をご存知だろうか? 何はともあれ、まずはこちらをご覧いただきたい。
離婚式 式次第
旧郎・旧婦、入場
開式のご挨拶
離婚に至った経緯のご説明
~司会者よりご報告~
旧郎・旧婦よりご挨拶
ご友人代表によるご挨拶
旧郎・旧婦、最後の共同作業
~結婚指輪をハンマーで叩き割る~
旧郎・旧婦、参列者での会食
閉式のご挨拶
解散
進行は結婚式に沿ってはいるようだが、いくつか見慣れない言葉も見受けられる。「新郎・新婦」ではなく「旧郎・旧婦」。二人の出会い「馴れ初めエピソード」紹介ではなく「離婚の経緯」の説明。お察しの通り、離婚式とは既に離婚した・これから離婚する夫婦が、親族・友人の前で再出発を誓うためものだ。
著者は離婚式プランナーであるが、離婚式誕生のきっかけは思いつきと成り行きにあった。学生時代から慕っていた先輩の結婚式に参列して二年後、著者はその先輩から「妻と離婚することになった」と報告を受ける。ベストカップルと信じて疑わなかった先輩夫妻の破局。あまりの戸惑いに、
「先輩、結婚式はあるのに、どうして離婚式というのはないんでしょうね……?」
という長年の疑問をぶつけ
「先輩、”離婚式”をやりましょう。私がプロデュースしますから!」
とヒートアップするうちに「離婚式をやりたい」という決意が固まり、あとに引けなくなってしまったという。「結婚指輪をハンマーで叩き割る」というアイディアも、苦し紛れでこのときに浮かんだものだ。
記念すべき初回の離婚式は悲惨なものだった。旧郎旧婦の挨拶が終わっても、会場の雰囲気は凍り付いたまま。司会進行の著者に突き刺さる、旧郎先輩の冷たい視線……。
しかし、式のクライマックスで奇跡が起こる。最後の共同作業。ふたりでハンマーを握り、思い出の詰まった結婚指輪に振り下ろした瞬間、
「カーン」
と乾いた音が会場にこだまする。ハンマーを持ち上げぺしゃんこになった指輪を目の当たりにすると、二人の表情が思いがけずパッと明るくなり、参列者から自然と拍手が沸き起こったのだ。
そこからは会場の雰囲気も和やかになり、式は無事終了。晴れやかな表情の先輩と奥様から「思ったよりも良かった。『離婚式』というのもアリかもね」と声をかけられたときの著者の安堵のほどは想像に難くない。そして参列者の一人、先輩友人の女性からも「思った以上に感動しました。私が離婚するときにも、ぜひ離婚式をやってください」と声をかけられる。「ありがとうございます」とは答えたものの、まさか二ヵ月後にその女性の離婚式を本当に執り行うことになろうとは、著者はこのとき知る由もない。
人によっては、離婚式に対し戸惑いを覚えられるかもしれない。「ふざけている」「人の不幸を食い物にして」という批判もあるかもしれない。しかしその反面、節目節目の儀式を大切にし礼儀を重んじる日本人が、「別れるときだけは黙って」では義理を欠くのではないか、破局も祝ってくださった方々にきちんとご報告すべきではないか、という著者の主張にも一理ある。
また本書を通し、少なからぬ人々が離婚式によって夫婦生活に踏ん切りをつけ、救われていることも分かる。親類や友人と当人との付き合いは、離婚や破局の後も続いていく。「過去」を腫物のように扱って気まずい思いをするより、いっそオープンにしてしまったほうが周りも接しやすいはずだ。離婚式、大いに結構ではないか。
この他、本書には各種ユニークな離婚式エピソードが収められ、純粋に読み物としても(またもや“不謹慎”だが)楽しく読める。式を機に結婚生活を見つめ直し離婚を思いとどまった夫婦、逆にヨリを戻そうとの思いから離婚式の依頼に来た旧郎(←やはり過去を引きずるのは男のサガか……)。こちらでは同じ車を3台所有する夫の金銭感覚に愛想尽かした妻がいるかと思いきや、そちらではDVを受けた夫が妻を恐れ、「挙式」による円満離婚すらままならぬ自らの境遇を嘆いている。
かたや、離婚式で出会った参列者同士が結婚、友人代表が「実はずっと好きでした!」と旧婦にプロポーズ、結婚式のご祝儀を離婚式で返す律儀な夫婦が登場するなど、もはや何でもアリ。別れのエピソードから見えてくる、イマドキの男女関係・夫婦生活の縮図がここにある。離婚をお考えの方のみならず、誰しもが興味深く読める一冊であること請け合いだ。
つづいて恒例のおまけコーナー、関連図書の紹介である。
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