懐かしさや遊び心あふれる郷土のお守りのお話を、美しい写真とともにお楽しみあれ!
いかに電子書籍が流行ろうとも、やはり紙の本ならではの良さというのはある。お守りを題材としている本書も、素朴さ・手作り感のこもった紙の作りがしっくりくる。ページを繰る度に香り立つ、インクの匂いも本好きにはたまらない。
本文では、北は北海道から南は沖縄までの各地方に昔から伝わる社寺の授与品や郷土玩具など(広義の)お守りが、全ページにわたりカラー写真入りで紹介されている。パラパラと気の向くままページをめくり、気になったお守りの謂れやその土地の伝統について、のんびりと眺めるのが愉しい。
試みに、ふと目に留まったお守りをいくつか挙げてみる。
■八百万の神様は多様なニーズにお答えします
とにかく勝ちたい人には勝守。商売繁盛や仕事や受験の成功・合格祈願に留まらず、北海道の西野神社では、武道(弓道・柔道・剣道)や球技(卓球・籠球・野球・排球・庭球・羽球・蹴球)を種目別のお守りで絶賛応援中である。
また、「えんむすび」というのは良く聞くが、安井金比羅宮では「悪縁を切ってこそ良縁が結ばれる」をモットーに「縁切守」「縁結守」をセットで授与している。本文101ページ、青地に「えんぎり」の金文字刺繍からは、お守りというより呪い札の貫禄すら感じられる。
■お守りにだってお国柄があるんです
笊かぶり犬には江戸っ子の洒落っ気がたっぷり。ザルはよく水を通すので鼻の通りを良くする、また、「犬」に「笊」の竹冠を合わせると「笑」の字に似ているなど、子育てにも験を担いでいた様子がうかがえる。
他方、忠臣蔵の敵役で知られる吉良上野介も地元愛知では名君として知られており、赤馬で領内をよく巡視していたことに因んで「吉良の赤馬」を模した玩具が伝えられている。
■全国カワイイお守り: 勝手にマイ・ベスト3
第3位: 黄鮒 (栃木県)
無病息災を祈る縁起物で、かつて宇都宮で疱瘡が流行った折、市内を流れる田川で釣れた大きな黄色い鮒を食べさせたところ病気が治ったという「黄鮒」伝説が元となっている。まん丸い円らな瞳にハマったが、病体でこの鮒が喉を通るかは、正直甚だ疑問である。
第2位: すすきみみずく (東京都)
雑司が谷・鬼子母神にちなんだ子育てのお守りとして親しまれており、2010年に鬼子母神の住職と地元有志で「すすきみみずく保存会」が立ち上げられた。ふっくらとしたススキのさわり心地(毛並?)が良さそうである。
第1位: こんぴら狗 (香川県)
愛くるしいワンちゃんが首に丸金マークの巾着。江戸時代、遠方に赴けない当人に代わって参拝する「代参」というシステムが確立しており、その代参を人の代わりに飼い犬にさせたのがこの「こんぴら狗」のはじまりということらしい。この人形を飾れば厄除け・商売繁盛のご利益があるらしいが、そもそも犬の代理参拝に果たしてご利益があるのだろうか、一抹の不安も残る。
この他、個性派揃いのお守りの写真・逸話がてんこ盛りの本書。
これだけ楽しめて、税別1,500円。一家に一冊、お手元にいかが?