著者 : 榎本 博明
出版社 : 日本経済新聞出版社
発行日 : 2011/10/12
前々回に「夫婦ゲンカ」についての本を取り上げたが、今回は上下関係。やっぱり人間に興味がある。上から目線についての本だが、最近の大学生の動向が描写されており、そちらのほうが興味深い。つい5年前まで大学生だったぼくですら目から鱗、信じられない現象が大学で起こっていることを知る。
トイレでランチを食べる。そんなニュースを2、3年前に聞いたときは、ただの都市伝説としか思えなかったが、本当らしい。大学に勤務していた著者は、実際にそのような相談を生徒から受けたそうだ。現在の大学生は友達づくりが最大の課題で、人間関係でカウンセリングに来る生徒が後を絶たないそうだ。そして友達ができてからもまた、悩む。どう付き合っていいかわからないと。トイレでランチを食べるのは、友達がいない自分を人に見られたくないという周りからの視線を意識しすぎている傾向の一つである。
その原因の一つに親の過保護がある。都知事も、首都大学東京の入学式に出席したときに、あまりに大勢の父兄が子どもの入学式に同伴してくることに驚いたという。「不可」が多すぎて、親に成績表を学校に勝手に送付されたらたまったもんじゃないが、今では大学は成績表を親にも送付するらしい。就職活動についても、親向けのコラムが読売新聞で連載される時代なのである。子離れできない親、親離れできない子ども。いつまでも親の庇護下にあり、上から目線を含む多様な目線に抵抗を持つ機会がない。
友達には気を遣いすぎるくらいなのに、アルバイト先でのお客さんには気を遣わずに時には上から目線で、キレてしまう。本書は若者の勘違いした「上から目線」と大人の部下や後輩から非難されがちな「上から目線」のインサイトを掬い取っている。そんな上から目線の裏側に隠れているのは、アメリカから流入してきた自己主張的な自己愛の満たし方と日本特有のマゾヒズム的な自己愛の満たし方の錯綜だ。世代間に存在するコミュニケーション・ギャップはかなり深刻なようだ。
と、ここで書評は一旦中断、話が大きく飛ぶ。週末に「TedxSeeds 2011」というカンファレンスに参加してきた。そこでは、HONZでも紹介のあったアンドロイドを創る石黒さん(テレノイドを携帯にする野望あるプレゼンは最高だったw)、新しい世界地図オーサグラフの鳴川さんなど、honzメンバーが食いつきそうなコンテンツ盛りだくさんのカンファレンスだった。
しかし、本カンファレンスで最も盛り上がった20分間は元東京消防警防部長佐藤康雄氏のトーク。放水後の記者会見をご覧になった方も多いかもしれない。致死量を超えるかもしれない放射線の中、放水冷却作戦やるしかないという共有された意志と使命感。限られた時間。アクシデント。そして、成功。
本書に登場するアイデンティティ型人間と自己愛型人間。前者は自分を超えたものに自分を重ね、そうした自分を超えたもののために忠誠を尽くすことを生きがいとする人間、自己愛が否定されたところに成立する社会化された生き方。自分勝手な自己愛を直接的に満たすことを生きがいとするのが、自己愛人間。
佐藤さんと部下との間に存在する強く結ばれた絆、奥様との絆、部下の家族との絆。佐藤さんからの出動命令を受けた部下の三島さんは大切にしなければいけない家族と自分の使命感の間で揺れ動く。しかし、消防士としての使命感を選択する。その自己愛と自分を超えたもののためへの忠誠の間での揺れに多くの人は共感し、その決意と実行力と成し遂げたことに、会場の人は感動した。少なくとも僕は涙腺が緩んだ。
本をダシにしてイベントのことを語りたいわけではないが、理想の上下関係とコミュニケーションのヒントが佐藤さんのチームにはあった。
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父親の力 母親の力―「イエ」を出て「家」に帰る (講談社+α新書)
著者 : 河合 隼雄
家族、家庭という大切なことを教えてくれる一冊。本書でも母性原理や父性原理で河合隼雄氏の論文が何度も引用されている。
著者 : みうら じゅん
出版社 : 角川書店 (1997/11)
発行日 : 1997/11
漫画ではあるが、青春を語る上で、重要なバイブルの一つ。ジョン・レノンやボブ・ディランが登場する異色の内容。
著者 : 若林 幹夫、undefined、若林 幹夫のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら
出版社 : 河出書房新社; 増補版
発行日 : 2009/2/4
オーサグラフのプレゼンテーションを聞いていて真っ先に思い出した本。以前の書評も書いているが、地図好きにはたまらない内容。