2020年、東京オリンピックの開催の裏側で、大学入試センター試験の改革が着々と進んでいる。次の中学3年生が高校3年生になるタイミングであるから、もう間近である。高校も大学も塾も、その準備に追われてとても大変になることは想像に難くないが、その手前にも、大きな問題が来ることは随分前から囁かれていた。2018年問題である。
1992年に200万人を超えた18歳人口は、2008年に120万人台まで減り続け、その後横ばいで推移した。その安定期は2018年には終わりを告げる。2016年度の出生数は100万人を切っているため、おおよそ20万人が減ることになる。
これは大学経営に大きな衝撃を与えるだろう。大学進学率が現在の55%前後で変わらず推移すると仮定すれば、大学進学者は10万人以上減ることになり、入学定員500人の大学が200校以上消えてしまう計算なのだ。
事実として、この10年で廃止された大学は10校を超える。2015年段階で、定員割れしている大学数は250校、そのうち定員の充足率が80%未満の大学が114校である。充足率が低下すれば、文部科学省からの補助金の減額幅が大きくなり、経営は苦しくなる。
いつ破綻してもおかしくなかった大学だが、幼稚園から高校を含めた学園全体で辻褄をあわせて、赤字の大学を支えていた。しかし、公立の中高一貫校の登場などで市場環境が変化し、高校以下の安定経営も難しくなっている。また地方では、私立大学の公立化というウルトラCが繰り広げられ、ますます既存の私立大学は窮地に追いやられている。
このような厳しい環境の中、同じ私立でも、近畿大学のように着実に成長を続ける大学もあれば生徒の募集や教職員の取りまとめに苦戦し、息絶え絶えの大学がある。そこにはどのような違いがあるのか、著者は歴史を遡り、統計データを駆使して明らかにしていく。
過去には、大学にとって驚くほどおいしい時代もあった。1986年から92年のゴールデンセブンと呼ばれる7年間である。受験戦争は加熱し、受験校数は平均で10回を超え、受験料収入だけでも莫大な収入になった。さらに、文部科学省は受験戦争の加熱化をおさえるため、臨時定員を設け、生徒数は増え、学納金収入も大幅に伸びた。準備があったにも関わらず、89年から93年の五年間で毎年40万人前後の不合格者数が出ていた。これはバブル崩壊により高卒の求人倍率の急降下などの要因により、予想以上に大学進学率が上昇したためだった。もちろん、予備校や塾などの周辺産業にとってもおいしい時代だった。
この時代以降、大学は急激に増え、私立大学は334校から604校になった。そして、新設された大学の7割強の母体は短大だった。短大側から見ると、最大500校あった短大のうち、半数以上が大学経営に進出したことになる。そして、受験バブルの恩恵を受けて、短絡的に四大化した短大が今、厳しい競争環境に晒され、学生募集に苦戦している。こういった短大の経営難を、歴史とデータを丁寧に追っていき、責任ある教育機関として目も当てられないような不祥事やずさんな経営体制の事例を交えながら、明らかにしていく。
その一方で、苦しい時代を組織一丸となって、乗り越え成長してきた大学がある。武蔵野大学、共愛学園前橋国際大学などである。武蔵野大学は200人の単科女子大学と400人の短大を併設したお嬢さま大学だったが、総合大学へと見事転換し、入学定員は2,000人を超える。学部構成も「情報」や「環境」や「総合」などを掲げた新しいコンセプトを作り出す他大学とは真逆で、オーソドックスな構成になっている。
前橋国際大学は、定員225人、教員組織も30人強と小規模ながらも、文部科学省が支援する事業に私立大学6位の6件も採択されている。教職員が一体化し、風通しのよい組織をつくっている。また、産業界と共創する仮想企業による商品化のプロジェクトなどにより組み、地元からも高い評価を受けている。
うまくいっている大学は長期的な視点で身の丈にあった取り組みをし、衰退している大学は、流行に追随し、その場しのぎの改革に取り組んでいるように思える。ありきたりで、身も蓋もない話ではあるが、大学経営でも変わりのない真実である。
2050年には1億人を下回り、出生数は60万人を下回る。そして、将来の推計人口は予測を大きく外れることはない。少子化の煽りを受ける大学及び教育機関の撤退戦は、この先もずっと続いていく。この逆境に負けない、力のある大学を見分けるヒントも本書にはある。
仲野徹のレビューはこちら。レビューの面白さと、大学広報の取り組みの本気さと大胆さに参りました。
弱小私学の生き残り方のケーススタディ。優遇されるマンモス大学の間でしぶとく生き残る。
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文部科学省の有識者会議で、グローバル人材を生み出すG型大学とその他のL型大学と主張し、議論を生み出したことは記憶に新しい。その主張の下敷きとなった書籍。
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