インタビューも後半に差し掛かるにつれ、ずいぶんと熱気を帯びてきた。実は序盤の頃は顔のパーツの彫りの深さや、青き瞳の鋭い眼光にばかり目を奪われていたのだが、話し込んでいくとずいぶんと分かり合えるポイントも見つかってくる。そして、HONZ読者の多くの人が悩んでいるであろう「読書習慣」にまで話は及んだ。(インタビューの前半はこちら、書評はこちら)
インタビュー(テキスト)
内藤:HONZには、本を買っても読まないーーいわゆる積読本が増えて困るという声が多く寄せられるます。正しい読書習慣をつけるためには、どのようなクエストを実践すればよいでしょうか?(※クエスト=大きな目標へコミットするための、目的ある行動)
ジェイン:よいクエストを考えるためには、最も小さな単位、あるいは最も簡単なクエストから始める必要があります。たとえば、これからの24時間以内にできること、それらを考えることで自分の大切なことや目標を達成することができるでしょう。
私なら、まず1ページだけを読むことに集中します。あるいはこれからしばらくの間読む本を1冊だけ選ぶということでも良いでしょう。とにかく、失敗するのが不可能なほど簡単にすることです。そして、もし本を手に取って1ページを読んだら、実際にはおそらくもっと読むでしょう。
でもそれだけ小さくクエストを分割して、失敗できないようにするのがとても大切なんです。
内藤:一方で私自身に関して言うと、なんでも過剰にやり過ぎるという傾向があり、とくに「本の読み過ぎ」については深刻な状況です。「やり過ぎの抑制」を目標にした時の、スーパーベターの使い方について教えてください。
ジェイン:二つ思い浮かびます。まず最初に、自分の好きなことをやり過ぎてしまうのは必ずしも悪いことではありません。それが他の人とつながっているのであれば、良いのではないでしょうか。
本をたくさん読んでいてそれが自己満足過ぎるなと思ったら、他の人を巻き込むことです。家族や大切な人と、一緒にその習慣を実践するのであれば、恩恵もあるでしょう。
内藤:たしかにそうなんですが、一方で自分が本の泥沼から抜け出せないのは、周りの人間にも原因があると思っているのですよ。その場合、いっそのこと友人関係を断った方がいいのでしょうか笑
ジェイン:なぜそんな素晴らしい習慣を止めなければいけないんでしょう! オンライン上で何千、何万という人と繋がり、自分の頭を刺激する、友人もできる、素晴らしい習慣だと思います。
私たちは仕事ばかりの人生を送る必要はなく、楽しみにも時間をつかうべきです。楽しいことは、きっとエネルギーや人との繋がりをもたらします。スーパーベターのコーチとして、あなたは読書を続けるべきだと言っておきましょう。
もしその習慣が克服するべき悪いものである場合、とてもおかしな対処法があります。悪い習慣に名前を付けて、モンスターやビデオゲームの悪者と戦っているかのように考えるのです。それによって、悪い習慣によるストレスを軽減することができます。
本書の読者の一人は、健康的な食習慣にしたいと思い、家にある子供用のジャンクフード、例えばマシュマロの袋にモンスターの顔を描いたんです。そうすることにより、袋を見たときに「ああ、これは戦わないといけないモンスターだ」と考えることができました。シリアスに考え過ぎず、気持ちを楽にすること、それが徐々に変化をもたらすことができると思います。
内藤:本書の内容で、お姉さん(ケリー・マクゴニガルさん)の研究からインスパイアされた部分などは、ありますか
ジェイン:ケリーはストレスに関する優れた研究を多く残しています。私たちはストレスの原因を回避するのではなく、自分を向上させたりするためのエネルギー源として活用できるのです
その考えはスーパーベターの中にも多く出てきます。現実の生活で問題や試練があっても、そこへ立ち向かう。ビデオゲームで悪者から逃げることなくゲームを進めるのと同じですね。ストレスから逃げるのではなく受け入れるというケリーの研究には、とても影響を受けています。
内藤:最後に日本の読者へ向かって、一言お願いします。
ジェイン:『スーパーベターになろう!』が日本でも発売されてとても嬉しいです。ほかのどの国よりも、日本の人々が本書の科学と研究成果を最も活用することができると思っています。
日本には世界で最も大きなビデオゲームの市場があり、またもっとも成功したゲーム産業があります。皆さんにはゲームの豊富な経験があり、その経験はとても役に立つ資源です。この本とともに、より自信とモチベーション、そして能力を高め、もっとも困難な試練を受け入れ、そして成功することを心から願っています。
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どこにボールを投げても、淀みなく的確にボールを打ち返してくる。それこそインタビューのやり取りにおいても、ゲームをプレイするかのような軽やかさで一つ一つの質問に答えてくれた姿が非常に印象的であった。
我々の人生は、困難と報酬のシーソーゲームのようなものでは決してない。急速な勢いで現実化しつつあるゲーム。その強力な没入感の力を借りれば、困難な道のりもきっと楽しく拓けていくだろう。ゲームをするように生きていくーーそのためのヒントに満ち溢れる『スーパーベターになろう!』を、是非みなさんもお試しあれ!
(協力: 早川書房、株式会社タトル・モリ エイジェンシー、Spotwright)