ノンフィクション新作の当たり月だった11月。初旬には『ゲノム編集の世紀』と『コード・ブレーカー』というクリスパー革命を描いたノンフィクションが立て続けに発売され書店店頭を賑わせました。11月末には『笑い神 M-1、その純情と狂気』が発売となり、直後から大きな話題となっています。
そんな豊作の11月。他にはどんな本が発売され、売れていたのでしょうか。
注目したい作品をいくつか紹介してみます。
今年も気候変動に関する本が多く発売されました。この『SPEED&SCALE』は、温室効果ガスの排出量ネットゼロという壮大な計画を遂行するためのアクションプランを示した本。原著は大きな話題になりました。具体的なプランを知っておくというためには必要な本でしょう。地球の現状を知るという意味では『大きな 大きな 大きな 足あと: もし全人類がひとりの超巨人だったら』もオススメです。
こちらは、地球上の人類80億人を合体させて、超巨大な人にしてみたとき、それが地球に対してどれだけの影響を与えてきたのか…という事を考えてみる絵本。冬休みにお子さんと話し合ってみるテーマにするのにも良さそうです。
世界を見渡してみても、テロがなくなる気配は見えません。一方でその暗い影は日本にも及んできました。
この本は、2015年に起こったフランスのシャルリー・エブド事件に端を発して作られた本です。12名が殺害されるという痛ましい事件の後、テロリズムとは何か、テロリストとは誰か、どうやってその恐怖を乗り越えたらいいのか、娘との対話という形を使ってそれらのテーマが語られていきます。
これからの社会を生き抜くためにも知っておきたい内容でしょう。
11月から始まったサッカーワールドカップは、想像していた以上の盛り上がりを見せることになりました。この時期にあわせてサッカーノンフィクションも数多く出版されています。
この『ニッポンとサッカー』は日本サッカー界を10年以上にわたって取材している英国人記者の作品です。海外からやってきた監督や選手たちは、この国でどんなことを思ったのか、何を感じたのか。彼らの言葉からはピッチ内外の様々な問題が浮かび上がってきます。
著者、チャールズ・フォスターは以前『動物になって生きてみた』という作品を出しています。イグ・ノーベル賞生物学賞を授賞している、と聞いただけでもどれだけぶっとんだ研究者かがわかるでしょう。前作についてはHONZでは冬木が“とてつもなく変態で、ありえないほど文章がうまい”というタイトルでレビューを書いています。
ちょうど文庫にもなっているので、こちらから読んでみるのも良いかも知れません。で、この著者が今回やってみるのが「人間のはじまり」へのチャレンジ。狩猟採集時代や石器時代、四万年の人類の歩みを実際に体験したサバイバルノンフィクションです!
専門家とは何なのか… テレビコメンテーターとして出た専門家の発言を巡ってしばしばそんな話題が聞かれます。この本が取り組んだのは「専門家の未来予測は、チンパンジーのダーツ投げより当たらない」という事を明らかにすることでした。
あまりに面白いので内容情報から本書の発見をそのまま引用します
・総じて自信過剰が見受けられた。専門家は実際以上に自分には将来のことがよくわかると考えていた。
・専門家の成績は全体としてダーツを投げるチンパンジーを上まわったが、僅差の勝利だった。
・歴史を動かす大きい力を大局的に把握する「ハリネズミ」型の専門家は、手元のデータに忠実で、考え方の違う相手にも長所を見出せる、控えめな「キツネ」型の専門家よりも成績が悪かった。
・好奇心、柔軟さ、意見の違いへの並はずれた寛容さが、予測の正確度と予測結果の脆さの自覚の両方に関連していた。
・ハリネズミはつねに最悪の予測者だったわけではなく、キツネもつねに最高の予測者だったわけではなかった。
じゃあ当てられる専門家とはどんな人だったのでしょう。
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2022年もあと1ヶ月を切りました。コロナ禍が収束したかと思いきや、新たな危機に見舞われることになったこの世界。それについて考える良質なノンフィクションも数多く出版された1年でした。今年皆さんが読んだベストブックはどんな本でしたか?今年の本は今年のうちに。改めて話題の本をチェックしてみてください!