2019年8月に病のため47歳の若さで亡くなった瀧本哲史さん。彼はずっと若者世代である「君たち」にメッセージを送り続けてきた。『2020年6月30日にまたここで会おう』は、瀧本さんが2012年に東京大学伊藤謝恩ホールで行った講義を1冊にまとめたものだ。生徒の参加資格を29歳以下に限定し、全国から約300人の10代・20代が集結したという。2時間にわたる講義の内容が収められている。
当時10代・20代だった人だけでなく、この本は多くの人に読んでほしい。タイトルをみるだけでは、いったい何の本だかわからないかもしれない。2012年に行われた講義をまとめた本のはずなのに、この本は20年代を生きるために必要な武器を与えてくれる本になっている。こんなに胸を熱くさせ、そして読んでいて涙した本にはひさしぶりに出会った。
瀧本さんには個人的にも大変お世話になっている。書店員時代、デビュー作の『僕は君たちに武器を配りたい』の刊行記念イベントを開催し、そのときに「書店はビジネスマンの武器商人である」というコメント入りのサインを頂いた。また京都に一人旅に行った際に、twitterに「なんの予定もない」とつぶやいたら、京大の講義を観にくる?と反応をして頂き、京都駅からタクシーに同乗させてもらい、京大で瀧本さんの講義を観させてもらったのもよい思い出だ。
瀧本さんはずっと日本の未来に期待をしていた。本のタイトルの通り、2020年の6月30日にまた同じところに集まって、みんなの「宿題」の答え合わせをしようと言っていた。そこまでは日本にベットすると。その6月30日まであと1カ月。瀧本さんが思い描いていた日本の未来に少しは近づいているのだろうか。
瀧本さんは日本への危機感から本を書いていた。特定のリーダーをぶち上げて、その人が世の中を変えるという「カリスマモデル」は、どうもうまくいかないんじゃないか、という問題意識があり、「武器モデル」を広めていくことで、日本をよくしていくことができるのではないかと思っていた。「武器モデル」は、世の中を変えそうな人をたくさんつくって、誰がうまくいくかはわからないけど、そういう人たちに武器を与え、支援するような活動をしていくモデルのことだ。
誰かすごい人がすべてを決めてくれればうまくいく、という考えは嘘で、「みなが自分で考え自分で決めていく世界」を作っていくのが、国家の本来の姿なんじゃないかと僕は思っています。
と、瀧本さんは言う。緊急事態宣言による自粛要請が解除されたいま、この言葉にはとても胸に響く。瀧本さんは常々「自分で考え、自分で決める」ことが重要だと言っていた。「自分で考えてない人は、人じゃない」とも言っている。だから自分で考え、決めることができるための武器をばらまくのだと。
そのためにリベラル・アーツを学ぶことの重要性も説いていた。『アメリカン・マインドの終焉』を書いたアラン・ブルームの「教養の役割とは、他の見方・考え方があり得ることを示すことである」という言葉を引き、学問や学びというのは、答えを知ることではけっしてなく、先人たちの思考や研究を通して、「新しい視点」を手に入れることだと言っていた。
多くの人は「わかりやすい答え」を求めてしまいがちだ。SNSやマスコミを見ていても、それはよく感じる。ただこの世に真の教えなんてないのだ。「わかりやすい答え」を声高に叫ぶ人がいたら、その人には注意した方がいい。
「どこかに絶対的に正しい答えがあるんじゃないか」と考えること自体をやめることが大切だと瀧本さんはいう。それでも「私はこれからいったいどうしたらいいの?」という人がいるかもしれない。そんな人に対する瀧本さんの答えは単純明快だ。
「自分の人生は自分で考えて自分で決めてください。」
人間だから「誰か」や「何か」に頼りたい気持ちがあるのはわからなくはない。しかし心の弱さに負けず、自分で考えるための枠組みが必要だ。その枠組みが教養であり、リベラル・アーツなのだ。なぜ学ぶ必要があるのか?という問いに対して、自分自身を拠りどころにするために学ぶという答えほど、スッキリと腹落ちするものはない。
本書に書かれていることを要約すると
「君はどうするの?」って話です。
主人公は誰か他の人なんかじゃなくてあなた自身なんだよ
自分で考え、自分で決める。そして読んでオシマイにするのではなく、行動せよ!
本書に限らず、瀧本さんの著作はどれも、時代に左右されることのない内容なので、これを機にぜひ読んでほしい。またどの本も長く読み継がれてほしい。
一番のオススメはこれ。 2012年のビジネス書大賞を受賞した際に、私が応募した選評がビジネス書大賞2012のHPに残っていたので転載する。
この本は10年代を生き抜く為の必読書と言っても過言ではありません。生きていく上で武器になる話がこれでもか!と詰め込まれています。正直こんなこと書いちゃって大丈夫なの?と思うような過激な話もあり、人によっては世の中の見方が変わってしまうかもしれません。それくらいインパクトがあります。リベラルアーツの重要性、スペシャリティを目指すこと、投資家としての視点など、自分にとって一番実になることが多い本でした。
武器シリーズの2点。「自分の人生は、自分で考えて、自分で決めていこう」という『武器としての決断思考』。「僕がかわいそうだからどうにかしてほしい」ではなく、「あなたが得をするから、こうするべきだ」が交渉の基本という『武器としての交渉思考』