HONZ読者にはお馴染みの仲野先生の著作『こわいもの知らずの病理学講義』の勢いが止まりません。9月に発売、発売即重版、そのまま勢い途切れることなく年末年始の増売期に入り、まだまだ売れ続けています。グラフで示してみるとその動きはこんな感じ。(日販オープンネットワークWIN調べ)
ちなみに、最も大きな売上となった1月2週は、朝日新聞の読書面に掲載された週です。
今後も、大阪大学の新入生が続々買うことになるでしょうから、勢いはしばらく止まらないでしょう。多分。
しかし『病理学講義』というタイトル、ジャンルの本がこれほどまでに売れるのは大変珍しいこと。どんな読者が購入しているのでしょうか?まずは読者層から。
いかに一般向きの本として読まれているかがここからも見てとれる結果になっています。45%程度が女性読者、それも比較的年齢の高い層にもリーチしています。どんな読者なのでしょうか。続いて併読本を見て行きます。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『漫画君たちはどう生きるか 』 | 吉野源三郎 | マガジンハウス |
2 | 『医者が教える食事術最強の教科書』 | 牧田善二 | ダイヤモンド社 |
3 | 『日本史の内幕』 | 磯田道史 | 中央公論新社 |
4 | 『遺言。』 | 養老孟司 | 新潮社 |
5 | 『不死身の特攻兵』 | 鴻上尚史 | 講談社 |
6 | 『日本軍兵士』 | 吉田裕 | 中央公論新社 |
7 | 『日の名残り』 | カズオ・イシグロ | 早川書房 |
8 | 『症状を知り、病気を探る』 | 市原真 | 照林社 |
9 | 『未来の年表』 | 河合雅司 | 講談社 |
10 | 『老人の取扱説明書』 | 平松類 | SBクリエイティブ |
こちらは『病理学講義』の読者が17年9月以降に購入した本上位10作品。全体を見ても、新書読者が多めのため新書のベストセラーが多く見られました。また、面白かったのは読書術、読書案内系の銘柄の多さです。HONZファンという読書への関心の高い層に支持されていることがよくわかる結果でしょう。
特徴的だなと感じたのが8位の『症状を知り、病気を探る』です。照林社という医学書専門出版社の本ですが、著者はSNSでも有名人のヤンデル先生…ということでこれまた一般読者から支持されている1冊です。こう考えると、専門分野を一般読者に近づけることについてのSNSの力はものすごいものだということですね。
それでは『病理学講義』読者の併読本リストから注目本を紹介していきます。
読書術や読書案内が数多く出版される中、今一番この読者に読まれていたのが森博嗣さんのこちら。もともと読書が得意ではなかったという森さんが、いかに本を読むようになり、いかに大学教授になり、いかにベストセラー作家になったのか。読書ということについて改めて考えさせられる1冊。
1キログラム。体重計に乗っても、何かを測っても、当たり前のように数字で表されてきた1キログラムに大きな変化が起こっていました。もともと10万年は機能するだろうと言われていた「キログラム原器」ですが、いま、製作から約130年がたちその原器の重さがゆらいでいることがわかってきたのだそうです。それでは新たなキログラムの基準はどうやって作るべきなのか?それに挑んだ科学について描かれたのがこちら。
これまでも医者の教えに基づく健康本はたくさんありましたが、『医者が教える食事術最強の教科書』の大ブレイク以降ブームが起こっています。健康本は一般的に女性読者が多めなのですが、面白いもので、ビジネス書出版社から出版されると読者の男女比が逆転します。今注目の1冊がこちら。
16年にはドラマにもなったコミックですが、病理学ということに興味を持ったということか、『病理学講義』を読んでから1巻目から購入しているという方が多くいらっしゃいました。病理医という珍しい視点からの医療マンガ、ぜひ手にとってみては。
仲野先生!『病理学講義』を買ったのち、最近になって『エピジェネティクス』を購入している読者が結構いらっしゃいます!そろそろファンクラブ開設してもいいんじゃないですか?
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WELQの騒動以来、出版業界でも「エビデンス」という言葉が多く飛び交うようになりました。昨今はオビや表紙にそれをそのままうたった本も多いようです。とはいえ、医療についてはまだまだ正解がはっきりしているとは言えない問題は多く残っています。まずは数多くの本に触れ、いろいろな考え方に触れた上で自分のアタマで考えていく、ということが必要になるのかもしれません。
性急に答えを得るのではなく、基本から勉強してみる。『こわいもの知らずの病理学講義』はそれに適した1冊です。たまには学生の気持ちに戻ってみるのも悪くはありません。