気がつけばもう目の前に夏が迫ってきました。書店の売場もそろそろ夏模様。文庫フェア、コミックフェア、図鑑のフェアと賑やかさを増しつつあります。特に子ども向けの図鑑は新作も続々。昨今は定番に加えて『危険生物』が子どもたちの心をつかんでいるようです。
さて、大人たち(特にHONZのレビュアーの皆さん)も生き物は大好き。今年に入っても様々な生き物がHONZのサイト上を騒がせています。中でも『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』と『バッタを倒しにアフリカへ』の2作は多くの方の注目を集めました。今回は、その2作を中心にこの夏注目したい生き物本について調べてみたいと思います。
まずは、読者層です。
上が『鳥類学者』、下が『バッタ』の読者層です。かたや単行本、かたや新書と判型が違うものの、読者層は比較的似ています。
新書で発売された『バッタを倒しにアフリカへ』は、他の新書と比べると比較的若い層の読者が多くなっているようです。装幀の強烈さも効いているかもしれません。『鳥類学者~』の方も10代、20代の読者数が多め、この前にブレイクした似た装幀の『最後の秘境東京藝大』の読者が相当数こちらも購入しているのが、年齢層を下げたポイントかもしれません。
併読商品を見てみましょう。
『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』読者の過去1年の併読本
RANK | 書名 | 著者名 | 出版社 |
---|---|---|---|
1 | 『最後の秘境 東京藝大』 | 二宮 敦人 | 新潮社 |
2 | 『応仁の乱』 | 呉座 勇一 | 中央公論新社 |
3 | 『蜂蜜と遠雷』 | 恩田 陸 | 幻冬舎 |
4 | 『ウニはすごいバッタもすごい』 | 本川 達雄 | 中央公論新社 |
5 | 『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』 | ケントギルバート | 講談社 |
5 | 『90歳。何がめでたい』 | 佐藤 愛子 | 小学館 |
7 | 『人口と日本経済』 | 吉川 洋 | 中央公論新社 |
7 | 『サピエンス全史(上)』 | ユヴァル・ノア・ハラリ | 河出書房新社 |
9 | 『うつヌケ』 | 田中 圭一 | KADOKAWA |
9 | 『バッタを倒しにアフリカへ』 | 前野ウルド浩太郎 | 光文社 |
『バッタを倒しにアフリカへ』読者の過去1年の併読本
RANK | 書名 | 著者名 | 出版社 |
---|---|---|---|
1 | 『応仁の乱』 | 呉座 勇一 | 中央公論新社 |
2 | 『ウニはすごいバッタもすごい』 | 本川 達雄 | 中央公論新社 |
3 | 『乙嫁語り(9)』 | 森 薫 | KADOKAWA |
4 | 『最後の秘境 東京藝大』 | 二宮 敦人 | 新潮社 |
4 | 『爆発的進化論』 | 更科 功 | 新潮社 |
4 | 『その日暮らし』の人類学 | 小川さやか | 光文社 |
7 | 『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』 | 川上 和人 | 新潮社 |
7 | 『日本列島100万年史』 | 山崎 晴雄 | 講談社 |
7 | 『人類と気候の10万年史』 | 中川 毅 | 講談社 |
10 | 『猟師の肉は腐らない』 | 小泉武夫 | 新潮社 |
どちらも上位に『最後の秘境東京藝大』が!この読者、その多くがHONZ読者なのかもしれません。というか、そうだと信じたい結果です。二つに共通してランクインしてきたのは『応仁の乱』。自然科学だけでなく、歴史をはじめ話題になっている分野の話にはアンテナが高い方々のようです。
かたや単行本、かたや新書ですが、併読商品を見るとどちらも新書の率が高め。ただ、『鳥類学者~』の方は週刊新潮の購入履歴のある読者が多くいらっしゃいました。雑誌で知って、書店に行って購入という流れは一定程度ありそうです。
それではこの読者の併読本から、注目作品を紹介していきましょう。
恐竜に負けずおとらず、恐竜前の古生物も人気があります。姿もそれぞれ独特ですが、その進化を見ていくと納得できたり、切ない気持ちになったり、と栄枯盛衰の歴史に心が動きます。カラーイラストを眺めているだけでも楽しい1冊。鳥が好きな人、虫が好きな人どちらの心もつかんだ1冊。
こちらも図版が豪華な1冊。文庫にしておくのはもったいない! 児童ポルノは所持しているだけでも犯罪ですが、美少女というのは常に芸術の対象にもなっています。一方で、その「美少女」という存在はエロスを呼び起こすものとして使われていたり、性をそぎ落としたものであったり時代によって様々に形を変えてきたのだそう。非常に興味深い作品です。
夜遊びときくと、ちょっとイケないことの香りが漂いますが、サブタイトルには「ナイトタイムエコノミー」の文字。地下経済の話では全くなく、まっとうな日が落ちたあとの経済活動のことを示すそうです。キャバクラ行っていくらつかって、その総額は…的な話を期待する方には門倉先生の本をお薦めします。
とにもかくにも、夜の経済をまっとうに活性化することには世界的な興味があつまっています。その取組について詳細に語っています。
著者は直木賞作家でもある三浦しをんさん。大の博物館好きだそうで、興味おもむくままに全国の博物館をぐるぐる… そもそも、三浦さんのエッセイというのは、考えるだけでもくすくす思い出してしまうような面白さ満載のもの、今回もご本人の妄想も炸裂。それに対峙している、各館の学芸員の皆さんもこれまた傑物揃い、と、面白い予感しかしません。なじみの博物館の違う顔も見えてくる、かも。
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今回に限ったことではありませんが、ノンフィクションはベストセラーになることで理系と文系の壁をやすやすと越えていきます。存在を知れば、人は理系文系関係なく興味を惹かれる作品に手を伸ばすのです。すべてに共通するのは知識欲でしょう。鳥にも、バッタにも、そして応仁の乱にも興味を持ってくれた方々が次に注目するのは何になるのでしょうか?
夏の書店店頭には、面白い作品が盛りだくさん。ぜひ面白い1冊を発見してください。