図書館の創意工夫を100種類紹介する書籍である。子供の頃から図書館につれられ、その工夫にひとり微笑んでいた私のような人間には面白おかしく読める本であるが、他に読者が存在するのだろうか。疑問に思って、本書を途中で閉じて、図書館に関する統計データを探ってみた。
2016年時点で公共図書館の数は3,300館弱、専任職員は1万人を超える程度である。他に私設の図書館もあるのだろうが、読者母数としては心細い数字だ。と思っていた矢先、小中高の学校には図書館の設置義務があることを学校図書館法によって定められている。また、大学の図書館も加えると、35,000を超える学校図書館がある。
合計40,000近くある図書館。そこで働く方々を読者の中心の据えた、マニアックだがターゲットが鮮明で、確実に役に立つ書籍である。100連発というタイトルは、ニコニコ学会βの発表企画「研究100連発」をヒントにしている。
図書館の来場者と本の新たな接点をつくるために、話題にならず表舞台に出てこない本に興味をもってもらうために、本に興味のない人に来場をうながすイベント企画し、あわよくば本を借りて読んでもらうために、さまざまな工夫を凝らしていることが大いにわかる。そして紹介されている事例の大半は、予算をほとんど必要としないアイデアばかりだ。
さて、紹介される企画は多種多様だが、そのなかには膝を打ちたくなるグッドアイデアがいくつかある。
雑誌の透明保護カバーに広告掲載
これは、雑誌スポンサー制度という取り組みで、スポンサーが雑誌そのものや雑誌の購入金額を寄付する仕組みだ。街の板金工場が自動車雑誌を、ツアー会社が旅行の時刻表雑誌のスポンサーになるなど、広告の基本であるストーリーを重視して、広告効果を高める工夫を行っている。
さらに、裏表紙ならぬ、本棚裏も広告枠としてちゃっかり活用している。
住民からすれば地域の会社をあらためて知る機会になるし、企業側からすれば図書館の雑誌だなというメディアを通じて、信頼度をぐっと高めることができる。
買わなくていい、借りる福袋
何が入っているかわからないドキドキ感と、正月の買い物と違って買わなくてもいい安心感、読まなくても返せばいい。そして、中身も売れ残りではなく、「新語・流行語大賞」や「映画・ドラマになった本」など、話題にあわせた本がしっかりとキュレーションされている。
似たようなアイデアとして、「誰も読んでいない本フェア」がある。好奇心旺盛な来場者にとっては、よだれが垂れるような企画だ。
ついつい誘されるがままに、開きたくなるイベント案内のレター
図書館の学習席にさりげなく置かれている手紙。
開けるとイベント案内が。
そして、チラシは複雑に折りたたんであり、もとに戻せず、持ち帰らざるを得ない。
紹介したような人の興味を引き、行動に小さな変化を促そうとする企画以外にも、硬派で真面目な企画も多い。例えば、自治体に採用されなかった教科書の本棚である。採用されなかった教科書の存在を知ることで、どのような選択肢があったのかを知る機会になり、教科書の内容を比較検討できることは、生徒にとって教員にとっても、学習の機会として意義のあるものだ。
他には、地域に根を張る図書館ならではの取り組みがある。例えば、地域の資料を作成している取り組みだ。知的創造の拠点としての役割を期待されているなかで、参加型形式でその実現を企むアイデアである。その他にも、来場者からアイデアを募集した結果、図書館のなかで珈琲やお茶を提供する取り組みをはじめたところがある。
地域の人たちを巻き込んで、創られていく図書館からは豊富な実践例が生まれそうである。
著者らはこれまでに1,500を超える図書館を視察し、図書館のいまを観察してきた。そして、図書館向けの雑誌のなかで、400を超える小さな工夫を紹介してきた。そこから100の事例を厳選したものが本書である。不特定多数の人々が来場する自由な空間である一方で、行政が運営主体であるために目に見えないしがらみがたくさんあり、その間に挟まれながら調整と試行錯誤の結果、生まれた苦肉の策もあり、外側からでは見えないいまの図書館事情がうかがい知れる。
自治体の財政悪化に伴い、予算の削減が続き、向かい風が吹く図書館だが、本書に登場するようなボトムアップの真摯な小さな工夫の積み重ねが、少しづつ図書館のポテンシャルと元気を引き出していく。
(画像提供:青弓社)