本書について知らない方は、まずは『でっちあげ』のプレミアム・レビューをどうぞ。
事件が発覚したのは2003年。本書が単行本として世に出たのが2007年。2010年に文庫化され、とうとう今年、第9刷にてこの事件の完全決着までが収録された決定版が出来上がった。著者はもちろんだろうが、上梓された直後に読み、賛成・反対、様々な意見に晒されたところをつぶさに見てきた私も、とてもほっとしている。
全国で初めて「教師によるいじめ」という体罰が発覚し、マスコミが過熱する。報道合戦が繰り広げられ、被害者の両親がメディアに登場して、教師からいかに酷いいじめを受けたかを語る。もちろん世間は同情し、担当教諭は「史上最悪の殺人教師」と呼ばれた。誰も死んでいないにも関わらず、だ。
ワイドショウや週刊誌の報道はそこまでだ。その後の経緯や裁判の結果など、一切報道しない。日々事件は起こり、天災が降りかかる。地方で起こったちょっとした事件など、普通の人が忘れるのは当然だ。
そこを食い下がり取材を続け、本書を上梓した女性ジャーナリスト、福田ますみは本書で「新潮ドキュメント賞」に輝く。
だがその後、彼女にも批判が渦巻いた。教師側の立場で書かれたこの本が、本当に正しいのか、ネット上でかなりの議論がされていたのを私が知ったのは、実はかなり後のことだった。
当時連載していた書評対談で相手に「あの事件、変じゃない?」と指摘され、アマゾンのレビューを読んで「こんな意見もあるのか」と目を啓かれる思いがしたのを覚えている。ノンフィクションを書くのにこんなに覚悟が必要なのか、と暗い気持ちにもなった。(アマゾンのレビュー投稿者情報の開示が認められたのはよかった)
福田ますみがこの本で失敗したのは、本当の結末まで書ききれなかったことだと思う。文庫版での著者自身の後書きも、解説を書いた有田芳生も、教師の冤罪を完全に晴らせなかったことを悔いている。
だが、この事件は終わっていなかった。新潮社のHPに書かれた【本当に本当の決着】を読んだとき、これは文庫が増刷されたときに入れるべきだ、と出版社に私も進言していたし、著者も望んでいた。だが時事ものだし文庫化から5年経っているため、実現は難しいと思われていた。
いじめ事件はなくならない。福田ますみは新たな取材を続け『モンスター・マザー』をこの春、上梓した。以前の轍を踏まないために、最高裁の判決まで待っての出版である。詳しくはレビュー(東のレビュー、内藤のレビュー)を読んでほしいが、この本がもう一度『でっちあげ』に火をつけ、増刷が決定した。
「追記」として、あとがきの後に6ページが加筆された。たった6ページだが何より重い6ページである。すでに本書を読んだ方も多いと思うが、奥付が平成28年4月10日の9刷からその文章は読める。新潮社HPに書かれたものを、非常にわかりやすくまとめたものだ。そろそろ書店に出回り始めているころだろう。こうして本書は幸せな結末を迎えた。