「少なからず世の中にインパクトを与えたい」「真のエリートやリーダーになりたい」そう熱い思いをもってビジネスの門を叩く若者は多い。ただ、思い描いていたような仕事をするためにはどのボタンを押せばいいのかは分かりづらく、苦労しがちである。大きな組織に入ればなおさらだ。国や企業はまるで走行する巨大機関車のようで、歯車にはなれども自分で思いどおりに動かすことは至難の業である。
そんな葛藤を抱えがちな若手ビジネスマンに、巨大機関車を上手く操るコツを教えてくれるのが本書だ。コツといっても、巷にあふれている営業・効率重視のノウハウとは一線を画し、本書が紹介するのは、革新的で歴史に残るようなダイナミックな仕事をできるようになるコツである。
著者は、世界最高峰のヒト型ロボットベンチャーを日本で起業し、Googleへ売却した男、加藤崇さん。実際に世界をアッと言わせたビジネスマンの言葉は示唆に富み、読者に勇気を与えてくれる。若手ビジネスマンや新入社員に強くオススメできる一冊だ。
著者が本書で紹介するコツは次の6つに集約される。
1. Encounter
リアルな現場に身をおき、全身でショックを受ける
2. Empathize
真面目な人間に共感し、他人事を我が事にする
3. Dive
怖いと思っても覚悟を決め、ダイブする(飛び込む)
4. Learn
道を走りながら、必要最低限の知識を身につける
5. Encourage
挫けそうになっても、自分を励まし、決して諦めない
6. Celebrate
思っていた以上にうまくいってしまった自分を確かめる
ビジネス本によくありがちな理論や知識をとうとうと語る説教臭さは本書にはない。むしろ本書のウリは、著者が実体験したビジネスシーンを追体験できることだ。リアルなエピソードが大半を占める本書は、生きたケーススタディー本として出来上がっている(約250ページ中でエピソードが218ページも占めている!)。この一冊には、MBAで学べることが凝縮されているといっても過言ではない。
冒頭を飾るエピソードは、世界が驚いたヒト型ロボットベンチャーの創造物語。2013年11月、Googleが日本のロボットベンチャーSCHAFTを買収したというニュースが世界を駆け巡った。米ブルームバーグ誌をはじめ英ファイナンシャルタイムズ紙や英エコノミスト誌など世界の主要メディアが大々的に取りあげ、当時大きな話題となったニュースである。興奮冷めやらぬ翌月の月末には、米国防総省国防高騰研究計画局(DARPA)主催の災害救助ロボットコンテストにて、SCHAFTのロボットがNASAなど並みいる強豪を抑えてトップに輝くという快挙を成し遂げている。
この朗報は、日本のロボット業界はおおいに活気づけ、それ以降、日本のニュースでは「ロボット」というキーワードが今日さまざまな場面で使われるようになり、今でも盛り上がっている。世界をアッと言わせ、日本の科学技術界に夢を与えたエピソードである。著者である加藤崇さんはSCHAFTの共同創業者で、この素晴らしい技術を日の目を浴びるかたちで世に送り出した功労者だ。本書には創業からGoogleへの売却までの一連のプロセスが詰まっており、読者はこの稀な事例を追体験できるようになっている。
各エピソードの後には、著者による解説が続き、上述6つの軸でそれぞれ整理されている。もともと普通のサラリーマンであった著者がなぜ世界最高水準のロボット技術を見いだすことができたのか、畑違いのロボット事業でなぜ成功することができたのか、なぜ確率的には失敗のリスク高いこの事業にのめり込む決意ができたのか等々の解説が加えられており、自分の仕事への向き合い方や覚悟について新たな「きづき」を与えてくれる。
「ビジネス界の松岡修造」と形容されるように、加藤崇さんの言葉は情熱的だ。「自分にもできるような気がしてきた」と勇気や自信を与えてくれるのが本書のもう一つのウリである。この情熱を感じるだけでも、本書を手にとって読む価値がある。
同じく加藤崇さんの起業バイブル。成毛眞の書評はこちら。