企業秘密として、立ち入りを禁じられた場所。
軍事上のセキュリティによる観点から、非公開とされてきた場所。
都合が悪いからと、見て見ぬふりをされてきた場所。
都市伝説として知られており、本当にあるのかどうか分からない場所。
これだけ交通手段も発達し、情報化が進んだとはいえ、まだまだ世界は広い。宗教、科学、歴史、戦争、様々な分野において、限られた人間しか立ち入れない驚きのスポットが数多く存在している。そして須らく行けない場所にはワケがあるのだ。
それはまさに世界中に散らばった情報社会の秘境。ヒトラーの地下壕から伊勢神宮まで、本書に掲載されている全99ヶ所の非公開区域の中から、そのいくつかを紹介してみたい。
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先祖とのつながりを重視することでも知られるモルモン教。その総本山の近くには、世界最大と思しき35億点を越える家系データが保管されている。ユタ州に位置する岩山の地下深くにそびえ立つ、グラナイトマウンテン記録保管庫という施設だ。施設の総面積は6000平方m、核爆発にも耐えられるほどの頑丈な扉の奥に存在するのだという。
2010年には保管されている系図記録のうち、およそ3億点が一般向けにオンライン公開されるようになったものの、その実態はまだ明かされていない。扉の向こうにはどのような秘密の情報が眠っているのだろうか。
今からはるか昔に起こった天地創造。その瞬間に限りなく近い景色が見られる場所がある。それがアイスランドの南に位置する、スルツェイという島。1963年にこの海域で火山噴火が起きると、一週間ほどで新島が形成。やがて噴火が収束する頃には、面積2.7平方キロほどの島に成長したのだという。
処女地として地質学的、生物学的に貴重な場所でもあるこの島は、研究者以外の上陸は厳禁とのことだが、冒険好きの少年がボートを漕いで島まで上陸し、ジャガイモを土の中に埋めていく事件も起こったというから何だか微笑ましい。
アドルフ・ヒトラーが最後の日々を過ごした総統地下壕も、現在では非公開エリアである。戦後のドイツ政府は、地下壕がネオナチの聖地とならぬよう常に警戒し、残存部分が見つかってもその存在を隠すことに躍起になったという。
今やどこにでもありそうな駐車場になってしまったが、ホロコースト記念碑からはわずか200メートルの場所に位置しており、その目立たなさが逆に触れられない過去の深刻さを物語る。
地中海版の軍艦島とも言える場所が、キプロスにあるバローシャという街である。かつてリゾート地として栄えたこの街も、トルコとギリシャの内紛をきっかけに住民たちが逃げ出し、無人の楽園になってしまった。
40年にわたり放置された建物はまるで時間が停まった街のようであり、そのままの状態で朽ち果てようとしている。双方の交渉における取引材料とされ、今だに解決の糸口は見えないままである。
イスラエルとエジプトに囲まれたガザ地区は、地球上で最も人口密度の高い地域。エジプトとガザ地区の国境はイスラエルによって長期に封鎖されているが、フェンスの下に何本ものトンネルが掘られていることは、公然の秘密だ。
トンネルは武器や弾薬の密輸入に日が入らず、食料や医薬品といった生活用途にも使われている。そのためトンネルの所有者や密輸業者、役人までが上前をはねる一大ビジネスになっているという。
最後に紹介するのが、パキスタン北部で見つかったビンラディンの隠れ家。中心の建物は3階建てで、少なくとも8つの寝室があり、建築面積は約3500平方メートル。最終的にこの場所が怪しいと判断されたのは、電話やネット回線が引かれず、周囲の人とも全く交わらなかったことによる。社会が可視化されていくことには、不可視化された領域を見つけやすくするという効能もあったのだ。
パキスタンの情報機関は、イスラム過激派の聖地とされることを恐れて、後に取り壊されることになってしまう。このように非公開区域が多くの人の知られるところとなった場合、聖地化されることのリスクと天秤に掛けられ、運命が定まっていくことが多い。
この他にも本書では、コカ・コーラのレシピ保管庫、Googleのデータセンター、中国サイバー部隊からソマリアの海賊の町までと、幅広く紹介されている。
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世の中は高度に情報化が進んだことによってパブリックな空間が広がり、世界は透明になったかのようにも思える。だが一見晒け出しているものだけが、本当の真実の姿とは言えないこともまた事実なのである。一方では人知れず秘密の情報自体が高度につながりあい、不可視の領域をより一層堅固なものにしているとしたら…
一つ一つの場所には非公開にすべき深い理由があり、その裏側には一冊のノンフィクションになるほどの奥深い物語が隠されていることだろう。来年は一体どのような未知に出会えるのだろうか。そんなことを考えながら眺めるのも、楽しいものである。
<画像提供:日経ナショナル ジオグラフィック社>