『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』 太陽風が吹けば何屋が儲かる?

2014年9月12日 印刷向け表示
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南米ペルー沿岸の広い範囲で海面水温が平年より高い状態が1年ほど続く、エルニーニョ現象。地球の裏側で起こるこの現象は、遠く離れた日本の夏をより涼しくし、雨の多いものとする。地球上の各地の気候はつながりあい、それぞれが影響しあっている。

2014年の夏は台風や局所的な豪雨などによる被害が頻発し、多くの人命が失われた。8月に広島を襲った豪雨はバックビルディング現象(積乱雲が発生し続ける現象)によるものだとも言われているが、これは温暖化が原因なのか、はたまた地球のどこかの何気ない変化の積み重ねによるものなのか。同じような悲劇を起こさないためにも、長期的かつ正確な気象予報システムの構築が望まれる。ビッグデータ時代を迎えたいま、データはよりきめ細かく、より広大な範囲で収集、分析されていくことだろう。

それではいつの日か、地球全体をリアルタイムで観測することで完璧な気象予測システムが完成するのかというと、そうでもなさそうである。なぜなら、地球外の要素、つまり宇宙が地球の天候に影響を与えていることが分かってきたからだ。本書は、「地球が宇宙とつながっていて宇宙からの影響を受けているという視点で地球の変動をとらえようとする試み」である宇宙気候学の基礎的な考え方、面白さ、そしてこれからの地球がどのような道を歩むのかを教えてくれる。

宇宙気候学の歴史は短い。その誕生は、フリス・クリステンセンとスベンスマルクによる、宇宙から降り注ぐ放射線が地球の天気を支配しているという画期的論文が発表された1997年である。地球に飛んでくる放射線が雲の発生に大きく貢献しているという彼らの説はあまりに斬新で、発表当時はあまり進展を見せなかったという。しかし、近年の新たなデータや理論構築のおかげで宇宙と地球気候の関連性はより明確なものとなっている。さらに、現在の太陽は200年に一度という非常に珍しい状態に入っており、宇宙気候学は今後も続々と驚くべき結果をもたらしてくれる可能性が高いという。

広大なる宇宙で最も地球に影響を与えているのは、もちろん太陽である。なにしろ、核融合をつづける、表面温度6000℃の太陽による光がなければ、人類は存在することができない。本書も先ずは、太陽とはそもそもどのような星なのか、黒点はどのように形成されるのか、どれほどダイナミックに変化しているのか、を解説するところからスタートする。

太陽は想像以上に躍動している。そして、太陽表面で起こる最も激しい現象は、大量のプラズマを放出する「太陽フレア」だ。太陽フレアで放出されるプラズマのサイズは、地球そのものの数百倍にも及ぶというのだから、まさにケタ違い。高緯度地域で観測されるオーロラは、太陽フレアが放出した荷電粒子が大気と反応して発光を引き起こしたものだが、太陽フレアがもたらすものは美しい自然の光景だけではない。太陽フレアの生み出す高エネルギーの荷電粒子は、人間の被ばくにも影響し、宇宙飛行士の活動を制限するものとなっている。もしも今1859年に観測された史上最大のものと同規模の太陽フレアが起ったとしたら、その被害は数百兆円にも及ぶと予想される。宇宙天気予報を気にする日がいつか来るのだろうか。

太陽についての知識をしっかり深めた後、議論は過去の地球変動へと進んでいく。年輪や氷床コアなど、地球に刻み込まれた過去の形跡を科学者たちが読み解く手法、炭素14やベリリウム10を用いた分析などについて、分かりやすく簡潔にまとめられている。そして、太陽、地球の真の姿を知ると、いよいよ本書はメインディッシュとなる宇宙活動と地球気候の関連性へと及んでいく。宇宙活動と気候変動の驚くべき一致を示す多くのデータで、太陽と宇宙がより身近なものに感じられるはずだ。

不機嫌な太陽―気候変動のもうひとつのシナリオ

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  宇宙気候学誕生のきっかけとなったスベンスマルク自身による一冊。

 地球46億年の歴史で大気がどのように変化してきたかが非常に分かりやすくまとめられている。「スノーボールアース説」など、よく耳にする言葉もしっかり解説されている。

地球進化 46億年の物語 (ブルーバックス)

作者:ロバート・ヘイゼン
出版社:講談社
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 生物と鉱物がどのように共進化してきたのか。壮大なスケールで描き出す。レビューはこちら

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
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