あなたはボノボ、それともチンパンジー?
答えに困る質問である。もちろん、私たち人間はそのどちらでもない。しかし、彼らはもっともヒトに近い類人猿だ。ヒトがチンパンジーとボノボの祖先と分岐してから、わずか100万年しか経過していないという。大人になっても遊びをやめないボノボ、集団同士で激しく殺しあうチンパンジーの特徴を本書で知れば知るほど、ヒトと彼らの類似性に驚くばかり。私たちのなかには、ボノボ的な部分とチンパンジー的な部分が間違いなく共存している。
コンゴ、ウガンダで研究を続ける京都大学霊長類研究所教授である著者の豊富なフィールドワークに基づく本書は、明快にボノボとチンパンジーの特徴を伝えてくれる。これら類人猿は、どのような集団でどのように生活しているか、そのような生活形態はどのような進化的過程で形成されたのか。ヒトと最も似ている彼らをじっくりと見つめることは、ヒトがどういう生き物であるかを探求する行為でもある。副題に『類人猿に学ぶ融和の処方箋』とあるように、著者の論考はこれからの人類の在り方にも及ぶ。
チンパンジーと同列で扱われているボノボだが、その存在はまだそれほど知られていない。10年ほど前に著者の講義に出ている300人の生徒に尋ねたところ「ボノボ」を知っていたのは、わずか数人だったという。ボノボが新種の類人猿として発見されてから、80年前しか経っていない。アフリカのど真ん中に生息するボノボとヒトとの遭遇は、80年よりもずっと前ではあるのだが、その外見があまりにチンパンジーと似ており見分けがつかなかったのだ。
一見そっくりなボノボとチンパンジーであるが、その生態は大きく異なる。本書のカバー絵が両者の特徴を見事に描写している。親子で仲睦まじく微笑みかけているのがボノボ、キバを剥き威嚇しているのがチンパンジーである。それぞれに大きく異なるが、どちらも人間臭い行動をみせる。
ボノボは大人同士でも仲良く遊ぶという。「動物ではふつう、大人になると遊ばなくなるといわれている」にも関わらず、ボノボが「電気あんま」を掛け合ったりする姿は珍しくない。そして、チンパンジーは日本のサラリーマンがびっくりするほど集団の空気を読んで行動するという。自分より序列が上のオスには逆らうことなく、しかし最大限の交尾やエサにありつくために、チンパンジーは時に共闘し時に下剋上を起こすのだ。
性の進化とそれに紐づく集団(家族)形成の過程が本書のメインテーマの1つだ。ボスの選出にまで母親の力が大きく影響するボノボと、圧倒的にオスが大きな力を持つチンパンジー、そして核家族というユニークな戦略をつくり上げたヒト。ボノボとチンパンジーを知ることで、少子化、晩婚化へと向かうヒトの社会が進むべき道のヒントが得られる一冊だ。