『「ひらめき」を生む技術』 MITメディアラボのカルチャー

2013年12月19日 印刷向け表示
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「ひらめき」を生む技術 (角川EPUB選書)

作者:伊藤 穰一
出版社:KADOKAWA/角川学芸出版
発売日:2013-12-07
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「次の所長候補」の選考において、MITメディアラボは、伊藤さんに辿り着くまでに300人の面接を行ったそうだ。アメリカ人の学者や研究者から検討を始め、MITは最終的に「ドバイに住んでいる、大学を出ていない日本人」を選んだ。

 

本書は、伊藤さんの就任後にメディアラボで始まった授業「カンバセーション・シリーズ」から、4回の対談を本にしたものだ。英語の題名は”The Art of Serendipity”だ。「セレンディピティ」について、本書には、この様に書かれている。

 

セレンディピティはこのように、「探していたわけではないけれど何だか面白いものがあるぞ、ラッキー」ということです。

 

この「ラッキー」をより多く発生させるためにどうすればいいか。そう考えれば、伊藤さんが下記のようにコメントし、自らのネットワークを用いた対談式の授業を行っている理由がわかる。

 

僕は多様な人材をコネクトさせればさせるほど、クリエイティビティやイノベーションが生まれると信じている

 

僕に得意分野があるとすれば、異分野同士をつなげるコミュニティ作りです

 

 

本書に登場する対談のゲスト4名は、バラバラな分野の、非常にクリエイティブな人達だ。1人目は、映画監督のJ.J.エイブラムス『LOST』、『ミッション・インポッシブル3』を手掛けた映画製作会社バッド・ロボットの創立者だ。2015年公開予定の『スター・ウォーズ エピソード7』の監督でもある。

 

2番目のゲストはIDEO社社長兼CEOのティム・ブラウンだ。『デザイン思考が世界を変える』の著者であり、スティーブ・ジョブスとAppleIII, Lisa, Mac(とそのマウス)のデザインをした人である。

 

3番目はリード・ホフマン、シリコンバレーの企業家・投資家だ。LinkedInPayPalの創業者であり、FacebookやZyngaFlickr等に投資してきた。興味の範囲は社会や政治まで広く、高い倫理観を持ち、シリコンバレーの誰もが警戒することなく彼に情報をシェアしているという。

 

4番目のゲストは、コメディアンのバラチュンデ・サーストン。知る人ぞ知る風刺ニュースサイト『ジ・オニオン』のエディターとして、一躍人気になった人だ。規模etc.は違うけれど、『虚構新聞』で大人気の人といったところか。

 

『オニオン』はWebサイトだけではなく、ほんとうの新聞(?)もカフェ等で配布している。採用面接は4次まであるそうだ。大変な人気企業である。サーストンさんが元々は人権や差別問題の活動家だったというのもおもしろい。活動途中で「笑いを通じた人間的なアプローチでメッセージを届けた方がずっと効果がある」ことに気づいたそうだ。

 

本書は、伊藤さんによるゲスト紹介が数ページ、その後に対談本文、というように構成されている。興味深いのは、伊藤さんの「問い」の切り口と、対談に現れる「喩え」だ。

 

映画監督のエイブラムスさんに対して、伊藤さんは「計画に基づく判断と、現場でのアドリブによる判断の割合」を尋ねる。監督からは、「霧の中のドライブ」という喩えが引き出される。

 

IDEOのティム・ブラウン社長には、「プロダクトからエコシステムへ、器(コンテナ)からプラットフォームへの移行」についての考えを訊く。ブラウンさんは「ニュートンからダーウィンへ」という喩えで答える。

 

起業家のリード・ホフマンさんとの対談では、「セレンディピティとディシプリン(規律)は共存できるか」という問いが立てられ、「セレンディピティが生まれる状態」が、「弓矢で狩りをする名人」に喩えられる。行き当たりばったりではなく、獲物にフォーカスし過ぎてもいない、一種の瞑想状態が理想だ。

 

コメディアンのサーストンさんには「コメディは”ユーザー・インターフェース”として機能するか」という質問を投げかけ、「砂糖に包まれた錠剤」という表現が得られる。

 

まとめとなる最終章で、伊藤さんは、ゲストの共通点が「謙虚さ」と「現場主義」にあると述べる。また、「現場主義」に関連して、荒廃したデトロイトで成果を挙げたMITのプロジェクトを紹介し、「助け合い・学び合いの場を作ることそのもの」が1つのイノベーションかもしれないと述べる。日本人は、身内には強い絆を持つけれど、無関係な人と心でつながろうという動機が希薄だ、という指摘は鴻上尚史さんの『コミュニケイションのレッスン』にも通じる内容で、意外な一致であった。

 

デトロイトのプロジェクトは、殺人罪で19年服役した作家シャカ・センゴールが案内人となった。現在、コミュニティ再生に尽力しているセンゴールさんは、メディアラボの「ディレクターズ・フェロー」の1人でもある。多様性を高める・現場を理解し大胆に問いを設定しなおす、というメディアラボの手法が端的に現れているように思う。

 

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メディアラボで進行中のプロジェクトを厳選して紹介。内藤順のレビューはこちら

 

 

 

 

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メディアラボ同様、次々にイノベーションを生みだしているYコンビネーター。内藤順のレビューはこちら

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