装丁が格好良かったので買った一冊だったが、内容も面白い。フランス史を競馬という視点から再構築しなおす本だ。まず筆者の仮説を紹介する、「競馬のせいでフランス大革命も七月革命も起こり、ナポレオンはサラブレッドを否定したのでイギリスとの戦争に負け、産業革命は競馬への情熱によって促進された」。奇論のようだが、本書を読みすすめると妙に納得させられる。
まずもって冒頭のくだりが憎い。まるで映画を観ているかのような滑り出しなのだ。夏のバカンスに緑豊かなロンシャン競馬場で、派手な帽子をかぶった女の子たちを視界に入れつつ、期待に胸ふくらませ馬券を買う自分を想像してしまう。もちろん周りはみな正装である。最初の8ページでもう既に非日常の世界、気分はフランスだ。
話を本筋に戻す。18世紀のフランスでは継承権が低く栄光を出世以外のところに求めないといけない由緒正しい貴族にとって、競馬は栄光を追うことのできる数少ない場であった。自分が所有する馬が勝てば一躍有名人だ。そんな貴族の一人がブルボン王朝の結末をしめくくったアルトワ伯(シャルル十世)。義理の姉であるマリー・アントワネットに格好いい姿を見せようと巨額のお金を注ぎ込んで馬を買い漁っている。自分の馬にアントワネットがキスをした際に言った一言が紹介されている、「おお、妃殿下!今のくちづけによって、わたくしの馬は天下無敵となりました!きっと勝ってごらんにいれます!」。競馬に狂っている王様や貴族を打倒しようと民衆が革命を起こしたという仮説も妙にうなずける。
本書には公式ブログなるものが存在し、ついついフランス競馬界の餌食になってしまうこと必須だ(http://bit.ly/hmjKQ2)。ブログ上では、筆者と編集者の手簡のやりとりがなされている。編集者の問いかけに著者が答えるやりとりを読んでいると、まるでパスカルとフェルマーの手紙のようだ。装丁ができる過程や編集者の思い入れ等も知ることができる。当ブログでも紹介されているが、本書の主要参考文献にはやはり、鹿島茂『馬車が買いたい!』が名を連ねており、面白くないはずがない。