著者はクジラの調査捕鯨船団長(シーシェパードから攻撃を受けているあの捕鯨船である)で小中学生向けの総合学習企画「クジラについて学ぼう クジラ博士の出張授業」のクジラ博士だ。本書を通して最新の知見や学説を分かりやすく紹介している。これ一冊を読むだけでクジラ博士になれて、まわりの子どもたちに自慢できる。ちなみに一番最初のページはクジラの口の中の写真。ついジーっと見入ってしまう(クジラ口内のヒゲは文楽人形に使われているそうだ)。
本書はまだまだ謎の多いクジラについて分かっていることと分かっていないことを明らかにしてくれる。まず、クジラは眠るのだろうか。米脳生学者リリーの研究によると、泳ぎながら左右の脳を交互に眠らせているようだ(半球睡眠)。やはりクジラは特殊な動物だ。では、夢を見るのだろうか。残念ながらクジラは夢を見ないらしい。ケンブリッジ大学の研究によると、クジラは夢を見ない特殊な哺乳類のようである。クジラの祖先は何なのか。DNA分析によるとカバだそうだ。DNA研究をベースとする分子生物学者と化石の発掘をベースとする古生物学者のあくなき戦いが現在も繰り広げられている。
クジラについてすでに詳しい人は第6章を読んでほしい。さすがにクジラが座礁しているのを見つけた場合の対処法を知っている人は少ないだろう。第6章はまずクジラが自殺するストランディング現象とその原因(寄生虫や地磁気説など諸説ある)が紹介されている。その次に紹介するのは座礁クジラを見つけた場合の対処法だ。もしクジラが海辺で座礁しているのを見つけたらどうするか。日本ではまず市町村に連絡だ。こんな時のために水産省は「鯨類座礁対策マニュアル」(http://utun.jp/TXJ/)を作っている。マニュアルによると現場対策本部の指揮を執るのは市町村長等だ。選挙で市町村長を選ぶ際はこの辺も考えて投票する必要がありそうである。
海岸に座礁したクジラは民法上どう扱われるか。無主物として扱われるので、発見者が所有できるそうだ。しかし最近の農林水産省令の改正によってマッコウクジラなど大型鯨類は勝手に所有できない。もし海辺でマッコウクジラの死体を発見しても記念に歯を抜いて持ち帰ってはならない。どうしても持ち帰りたい場合は、農林水産大臣宛に報告書と所有状況を書面で届け出なければならない。そして所有の許可を得るためには、クジラの脂皮か肉の一部を研究機関に郵送してDNA登録を行う必要がある。登録費用は10万円だ。それに加え、残滓を一般廃棄物として適正に処理しなければならないので30トン以上のクジラの廃棄費用を請求される。どうしても記念に欲しいという人は気をつけたし。本書はグジラについてすでに詳しい人も詳しくない人も楽しめる一冊に仕上がっている。