グローバル・ヒストリーを知るための最高の入門書であろう。各国でグローバル・ヒストリー研究が進むにつれ、歴史学はサイエンスとして再認識され、中学高校の教科書も大きく変わるであろう。
個人的にはグローバル・ヒストリーが定着するにつれ、政治学や経済学も進化するであろうと思う。新しい資本主義や民主主義などは、薄っぺらな「社会はこうあるべき論」のような観念論などから生まれない。歴史認識からのみ生まれると確信しているのだ。
本書によればグローバル・ヒストリーの特徴は5つある。第1はあつかう時間が長いということ。第2は対象となるテーマは幅広く、空間は広いということだ。第3はヨーロッパ世界の相対化。第4は地域間の相互連関。
そして第5はもっとも重要な特徴だ。すなわち、従来の歴史学が戦争や政治、経済活動、宗教・文化がおもなテーマだったのに対し、グローバル・ヒストリーは疫病、環境、人口、生活水準などにも目を配るということだ。
本書では「ヨーロッパとアジア」「環境」「移動と交易」「地域と世界システム」の4つの章を使い、それぞれの分野での研究者と具体的な書籍名を紹介しながら解説している。ちなみにここでいう「環境」とは亜氷河期なども含む地球規模のものだ。
「ヨーロッパとアジア」ではホジソンの『世界史再考』、ジョーンズの『ヨーロッパの奇跡』、ノースとトマスの『西欧世界の勃興』、ポメランツの『大いなる分岐』などと続く。専門書ばかりのように見えるが、読み物として認識されている書籍も多く登場する。たとえばダイヤモンドの『銃・病原菌・菌・鉄』やブローデルの『地中海』などだ。
本書は少ない頁数のわりには図版も豊富であり、通勤電車の中で読める格好のテキストである。本書を2010年のTOP10候補とする。