朝鮮日報オンラインの日本語版でソニア・レオンの『Romeo and Juliet』を知った。ロンドン特派員が昨今イギリスで流行るものとして紹介していたのだ。じつはこの本、イギリス人女性が書いたマンガである。驚くことに舞台は現代の東京。ヤクザのモンタギュ一家とキャピュレット一家が抗争している設定だ。名前はともかく、登場人物はすべて日本人である。
ちなみに、あらすじもせりふもほぼ原作そのままなのだが、エピソードは現代の日本風に脚色してある。ロミオはJロックの歌手だし、両家の手下は原宿で日本刀を手に抗争する。ちなみにロレンスは神社の神主だ。絵は完全な日本の少女マンガ風である。
つまり、韓国メディアが紹介する、イギリス人による、日本を舞台にした、アメリカで出版された、萌え系のマンガなのだ。
朝鮮日報によればファイナンシャルタイムズが「簡潔ながらも原作の言葉を生かしている」と評価しているとのこと。そのうちに英語の教科書として使う、お調子者の教師も出てきそうだ。
英語の勉強といえばアメリカのテレビドラマもおすすめだ。アメリカの連続ドラマは日本のそれと比べ、はるかにリアリティがあり種類も豊富だからだ。ラブコメディーから歴史もの、超能力ものまでなんでもありだ。
テロ対策のサスペンスドラマである「24」が定番として知られているが、超大型歴史ドラマである「ROME」も見ごたえがあった。なにしろ二百億円の費用をかけ、八年がかりで制作されたシリアスなドラマなのだ。NHKの大河ドラマが小川ドラマに思えてくる。
それ以外にも我が家では科学捜査班「CSI」シリーズをすべて録画している。ハードディスクはパンパンだ。これからのお楽しみは映画「ターミネーター」続編のテレビドラマ版である。未来から来たロボット同士の戦いのドラマだ。アメリカでは今年一月から放映が開始されたという。『新世紀アメリカドラマガイド』はそんなアメリカドラマのミーハー向けガイドブックである。
SFテレビドラマ以上に非現実的に思える計画を紹介している本が『宇宙旅行はエレベーターで』だ。この宇宙エレベーターとは十万キロメートルほどのケーブルを赤道からまっ直ぐ宇宙に向かって伸ばすというものだ。文字通りそのケーブルに人が乗る籠をつけて登っていくだけというものである。
一九七〇年台にSF作家のアーサー・C・クラークが紹介して有名になったのだが、カーボンファイバーの技術が進展したため、現実味を帯び始めたらしい。想像を絶する長大さではあるが、原理はエレベーターである。ロケットに比べはるかにランニングコストは安いのだという。この本の著者たちは二〇二九年には建造が実現するとしている。しかし、その時までアメリカの経済が持てばの話だ。
原題は『三兆ドル戦争』だったのに、冗長でありふれた邦題をつけられてしまって損している感のある『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』はノーベル賞学者スティグリッツの最新刊だ。
スティグリッツたちは本書でアメリカがイラク戦争で三兆ドルのコストを支払うことになると計算した。考えられるあらゆるコストを算入しているため、過大すぎるとの批判もあるようだが、イエール大学のウイリアム・ノードハウス教授も別の研究で二兆ドル近くになると計算しており、原油価格しだいでは現実的な数字なのかもしれない。
同様のタイトルをもつ『戦争の経済学』はノーベル賞にはまだまだほど遠いミシガン大学博士課程の院生による大著だ。なんとなく経済学的に怪しい部分もあるような気もするのだが、専門家ではないのではっきりとはいえない。しかし、原著はマグロウヒルから出版されているのだから大筋で大丈夫なのだろう。すくなくとも酒場でアメリカの戦争にまつわる薀蓄話をするときのネタ本としては最高である。
たとえば本書では、アメリカが平和維持活動にあまり首をつっこみたくない理由は、限界便益を上回る限界費用が発生するからだとしている。なんのことはない、国連は兵士一人あたり月千ドルをアメリカに支払うが、アメリカ兵のコストは月四千五百なので損だというわけだ。
とはいえ、日本にはこんなまともな大著を書く院生もいないだろうし、それをまともに出版する出版社もないであろう。そんなアメリカがうらやましいところだが、三兆ドルのコストを考えると、もはや理想国はない。
いまだ理想国とは言いにくいのが中国だ。まちがっても食事前に『「死体」が語る中国文化』を読んではいけない。水滸伝では脚色だと思っていた「吃人」すなわち 人肉食いの話が現実味をもって次々と紹介される。
地震や洪水などの自然災害が日本人の感覚からかけ離れた規模で発生するこの大陸国にあっては、悲劇の質も量も想像を絶する。それゆえに死者に対する感覚もまた日本人とはことなるのであろう。経済学用語をマネると、比較優位な自然環境の効用大なるべしだ。