『星めぐり歳時記』

2010年3月5日 印刷向け表示
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宇宙吟遊 光とことば  星めぐり歳時記

作者:海部 宣男
出版社:じゃこめてい出版
発売日:2009-07
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著者は野辺山電波観測所やすばる望遠鏡の建設に尽力し、国立天文台長などを経て、国際天文学連合の次期会長に就任が決定している海部宣男だ。これまでにも『宇宙をうたう』や『天文歳時記』などで、宇宙と詩歌の世界をリンクしてきた不思議な存在だ。その二つの世界に興味を持つ人の数は限られているとみえ、アマゾンではめずらしく3冊ともレビューが書かれていない。

本書もまた不思議な作りになっている。127ページに5つの章が設定されている。第1章は「宇宙に紡ぐ―光のことば12カ月」。天体写真とその解説、そしてその天体にちなんだ詩歌とその解説が12セットだ。

たとえば2月は「おうし座」の「かに星雲」。「かに星雲」は超新星の名残で、中心では中性子星が明滅を繰り返すと解説される。そして選ばれた詩歌は『古今和歌六帖』から「君にのみ逢はまく星の夕されば空に満ちぬる我心かな」だ。『古今和歌六帖』は和歌の大辞典であり、歳時記のはしりであるとも解説がつづく。

第2章は「七耀の歳時記」で、この章には写真はなく、日月火水木金土の天体エッセイとやはり詩歌だ。ここでは『万葉集』から宮沢賢治までの詩歌が登場する。

第3章は「星の誕生・宇宙のはて」と題して、こんどは写真を使った宇宙の解説なのだが、取り上げているのはたった5点、星の誕生、星団、星の終わり、銀河、宇宙のはて、だけである。「

第4章は「春夏秋冬 星空散歩」の章。春夏秋冬の星座とその解説と詩歌。なぜか最後のページには日本から見える明るい星17ランキングのリストが付いている。

最後は「星と暦の質問箱&星用語MEMO」で、章としては扱われてはいないが「おまけ」でもない。見返しにはそれぞれ月の満ち欠け表と全天88星座表が印刷されている丁寧さだ。

それにしても不思議きわまりない本である。宇宙についても詩歌についても、個別にみるとページ数が少ないため、内容が薄い印象になる。しかし、1冊の本として見るとじつに魅力的なのだ。著者の2つの世界への思い入れがひしひしと伝わってくるからだ。

いつも手元に置いておいて、星が見える夜に、夜空を見る気になったら、この本のページを開いてみよう。もし、次の10年で1年に1回でもそんなことがあれば、1回につき150円というお買い得本である。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!