テレビ東京の「開運!なんでも鑑定団」で書や掛け軸を中心に鑑定している田中大の本だ。帯にはハンカチを口にあてるおなじみの本人の顔写真や、目立つように番組名を赤い書体で印刷していてあざとい。しかしその帯を取ってしまうと美しい装丁の本である。
本書は75点の掛け軸や書などの墨蹟を紹介している。見開き右ページには墨蹟のカラー写真とその読み方および解釈、左ページには言葉の解説と揮毫者の人物紹介が塩梅良く配置されている。著者経営の骨董店である思文閣での販売価格が紹介されていて、これが案外役に立つ。
掲載されているいくつかを紹介しよう。額装された徳富蘇峰の書は「万象是吾師」。この世の事物はすべて自分の師である、という意味だ。これで18万円。徳川慶喜の書も同じく額装されていて「慎終如始」。事の終わりは始めのように慎重にする、の意。150万円もする。
その中でも欲しいと思ったのは西田幾多郎の書。雄大な書で、
「あかきもの 赤しといはて あけつらひ 五十路あまりの 年をへにけり」
である。解説には「すべて、わが人生。来し方をありのままに受け入れたとき、進むべき道が見えてくる(略)」とある。
しかしじっさいは、主流たる実践なき「哲学学者」に対して、禅者として哲学する自分の反骨ぶりを嗤ってみせた書だと思うのだ。京都学派創始者の面目躍如たる書だ。
じつはこのページを見た瞬間に思文閣に電話してみた。売り切れだった。ちなみにこの書は65万円である。