最近読んだ月刊誌を何冊かセレクトして紹介する『月刊誌セレクト』お試し版である。お気に召すであろうか。
『芸術新潮』6月号の特集は「創刊750年号記念大特集―貴重永久保存版 古事記」である。150ページを超える特集の分厚さにいささかたじろぐ。まあ、おっしゃるとおり保存しておいて、いつか読もうかという態度で良かろう。以前はその月の特集に興味があれば買ったのだが、ここ半年は特集がなんであれ買っている。その理由は鹿島茂の「失われたパリの復元」という連載を楽しむためなのだ。カラー図版を多用してオスマン以前のパリを描写するという連載。今月号は「大革命前後」である。
パリのど真ん中、現在のイノサン広場には墓地があったという。この墓地にパリ中の死者が埋葬された。7000平方メートル、2000坪程度の土地に1000年間にわたって運び込まれた遺骸は200万体以上!あまりのひどい臭さについに移動が命じられ、以降ローマ時代に作られた地下墓地(カタコンブ)が使われた。ここにはいまも600万体のパリジャンが眠っているという。などということが6ページにわたって語られる。この連載は間違いなく1冊の本になるであろうが、すべての図版が本に転載されるとは限らない。そうなっては困るで雑誌を買うのである。これはワナだ!と叫んでも、編集部は「してやったり!」とほくそ笑むだけであろう。
『クーリエ・ジャポン』7月号の特集は「北欧に幸せのヒントを求めて」。幸せな働き方を実現するフレキシキュリティというシステム。気になる。税金が高いノルウェーのほうが、なぜ米国より起業しやすいのか? 相当気になる。テストなしでも競争力が育つフィンランドの「世界一受けたい授業」 まじに気になる。そのほかレゴ本社レポートなど多彩な記事が目白押し。特集以外でも「ロシア軍最強の精鋭部隊スペツナズに何が起きたか」「北朝鮮の強制収容所で生まれ育った男の物語」など誌面から目が離せない。
「北朝鮮の強制収容所で生まれ育った男の物語」は政治犯の子供として強制収容所で生まれた男性をアメリカ人記者が取材したものだ。人が処刑されるのを目の前で見たのが4歳。6歳のときには級友の女の子がトウモロコシを5粒持っていたという理由で教師に撲殺された。13歳のときには母と兄の脱走を密告したあげくに、逆さ吊りの拷問を受ける。それ以降の出来事はここに書き写す気にもなれない。北欧と北朝鮮のなんたる対比であろう。北朝鮮が崩壊するとルーマニアや東ドイツどころではない復讐が行われるのではないだろうか。
『natureダイジェスト』6月号で興味深い記事タイトルを列挙してみよう。「振られた雄バエはやけ酒をあおる」-セックスとアルコールによる報酬系の基盤には、たった1つの神経伝達物質が関与しているのだという。「男ならヨーグルトを」-善玉菌のおかげで、”強精マウス”に? 「ピンボケ度で距離を知るハエトリグモの目」-日本人研究者へのインタビューだ。科学的事実も実験方法も面白い。新型の光学デバイス開発に使えるかもしれない発見だとおもう。
『フォーリン・アフェアーズ・レポート6月10日発売号』特集は3本。「ユーロ問題の本質と危機後のヨーロッパ」と「解体するBRICS」、「なぜシリア紛争は終わらない」だ。この特集以外に米陸軍参謀総長のレイモンド・オディルノが米陸軍の役割の変化としてアジア太平洋シフトについて論文を発表している。この論文のなかでパートナーとして記述されている国は5か国、オーストラリア、韓国、日本、タイ、フィリピンの順だ。現状の重要度順や親密度順ではなく、なんらかの政治的な意味を持っているはずだ。
オリンパス事件の調査報道、すっかり日本を代表するクオリティマガジンとして定着した『FACTA』6月号の目玉は「白旗SNSに『後門』の虎」、「SBI『幽霊』子会社の暗部」、「オリンパス新取締役11人の原罪」、「裁判所が『特捜部廃止』の引導」などであろうか。身に覚えのある向きは毎号のFACTAに戦々恐々であろう。
格闘技にはほとんど興味はないのだが「格闘技『K-1』さらば日本」という記事が面白かった。「K-1」は香港企業に買収され、海外での独自路線を歩みはじめているのだという。「PRIDE」はすでに「UFC」アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップに買収されていた。登場人物は石井館長やアントニオ猪木はもちろん、ENCOM、サンドリンガムファンド、元ライブドアの宮内亮治氏など多彩だ。いろいろあるんだねえ。この号ではありがたくも拙著『成毛眞のスティーブ・ジョブズ超解釈』の書評をしていただいた。
6月6日のHONZ朝会で話題になったのだが、新潮社のPR誌『波』がどんどん面白くなってきている。じつは今月読む本で紹介している『幼少の帝国』は『波』に連載されていたのである。他にも『未完のファシズム』片山杜秀著、『わたしが出会った殺人者たち』佐木隆三著、『ヒトラーのウィーン』中島義道著、『義理と人情―長谷川伸と日本人のこころ』山折哲雄著、『絶倫食』小泉武夫著、『38億年 生物進化の旅』池田清彦著、『パリの日本人』鹿島茂、『お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道』山本博文著、なども『波』の連載をまとめた本である。
『波』は3年間36冊で2500円ぽっきりだ。なんと送料込みだ。じつにお徳なのである。たとえば『私が出会った殺人者たち』1700円は、『波』の2010年6月号から2011年11月号までの18か月に連載されていた記事を1冊にまとめた本だ。これを読むだけのために『波』を買ったとしても1250円ということになる。現在連載中は10本。気に入った連載が1本でもあれば、定期購読はやはりおトクだ。ヤスヤスと新潮社のワナにハマるつもりはないが、144ページで69円は安い。
週刊だが『Newsweek日本語版6・13号』の特集「息切れクールジャパン」は必読かもしれない。多くの日本人は外国人がマンガやアニメに夢中であり、各地ではコスプレやメード姿も流行っていると思っているだろう。しかし、外国人の友人たちの誰一人として自分も子供もマンガなど読まないし、コスプレなどをする人たちをバカにしている。ただでさえ世界経済が減速しているなかで、期待しすぎたブームが去ったときの寂寞感は想像以上かもしれない。