この本には力がある。写真家・白尾氏の仕事はすばらしく、大判ページを繰ると世界の露頭が眼前に立ち現れる。そこに広がるのは生(=き)の地球の姿だ。厳然と切り立つ崖に荒々しい岩肌―元来の地球は「自然」すら超越した存在であり、本来は「惑星」なのだということに気付かされる。九州大の清川准教授による巻末の解説も充実し、感銘は一層深いものとなる。
微惑星は理論的に導かれた仮想天体で、地球軌道付近での大きさは直径10km程度だったと考えられている。この微惑星の衝突合体により太陽系の惑星たちが誕生した。さらに十数個の火星サイズの天体が巨大衝突を繰り返し、最終的な原始地球が誕生する。
微惑星が原始地球に衝突すると、微惑星の運動エネルギーが熱エネルギーに変換される。原始地球が成長するにつれて微惑星を引き付ける重力が大きくなるので、衝突によって発生する熱エネルギーは増加していく。原始地球が月程度の大きさに成長すると、衝突による高温・高圧の影響で微惑星からの脱ガスがはじまる。
このガスには水蒸気や二酸化炭素などの揮発性成分が含まれる。原始地球が火星大に成長する頃には、すでに大量の大気を持っていたと考えられ、水蒸気や二酸化炭素には保温効果があるので、表面が溶融してマグマオーシャンが形成した可能性もある。
月の成因については諸説あったが、現在では原始地球に火星大の天体が斜めに衝突し、飛び散った破片が再び集まって月ができたという「ジャイアントインパクト説」が最も有力である。
月には直径500km以上の巨大クレーターが多数残っているが、これは40数億~38億年前の激しい衝突の時期に出来たもの。巨大クレーターの中に後の火山活動で溶岩が溜まってできた平原が「海」で黒く見える。月にはプレート運動がなく水や大気もないため、遠い過去の記憶がそのまま残されている。
生物の痕跡は、太古代の後期になると至る所で見られる。ストロマトライトの存在である。ストロマトライトは、シアノバクテリアによって作られる層状構造を持つ堆積岩である。ハメリンプールはオーストラリア西海岸の小さな入り江。この浅い海には、現生のストロマトライトが広がっている。
新生代で最も壮大な地質現象は、ヒマラヤ山脈が出来たことだろう。ヒマラヤ山脈は5000万年前、インド亜大陸がアジア大陸に衝突してもぐり込むことによって成長をはじめた。600万~100万年前には現在のような山脈が出現した。ヒマラヤ山脈の形成は、大気の大循環に大きな影響を与え、アジアのモンスーン気候や内陸の砂漠化をもたらした。
258万年前からはじまる第四紀は、気候が寒冷化した時代である。特に最近80万年は寒冷化が著しく、約10万年周期で氷期と間氷期を繰り返している。最終氷期は1万年前に終わり、現在私たちがいるのは間氷期にあたる。
1959年、リーキー夫妻はこの崖から猿人アウストラロピテクス・ポイセイを発見。また、1964年には原人ホモ・ハビリスを発見した。当時は2種の人類がすぐ近くで暮らしていた。この付近は火山地域で、火山灰が人類化石の保存に役立ったらしい。
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本稿を綴っているうちに、あまりに奇跡的・圧倒的な地球の存在に当てられてしまったようだ。「地球が誕生した」などとタイプしていると、年甲斐もなく(むしろ年のせいか)胸からこみ上げてくるものがあり、目頭が熱くなってきてしまう。
宇宙史・地球史の世界にすっかり気持ちが絡め取られ、心ここにあらずといった心境で、しばらくは同系統の積読本を芋づる式に読み進める日が続く予感がする。
そして、関連本を紹介している傍からポチっと発注の私。これはいよいよ重症かもしれない。
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