「そりゃそうだ」とタイトルでスルーしてしまいそうな本だ。しかし一読してびっくり。これから親になる人や小さな子供を持つ親は必読である。
本書は深代千之とスポーツジャーナリストの長田渚左の対談で話が進められる。深代は東大大学院の教育学教授。力学・生理学などの観点から身体運動の理解と向上を図る「スポーツバイオメカニクス」の第一人者である。以前『運動会で一番になる子どもの育て方』が評判になったことがある。
冒頭の深代の言葉から引き込まれる。
勉強は頭で、運動は身体で…というのが一般的な常識です。でも漢字や九九を覚える、いわゆる勉強と、箸の使い方やボールの投げ方の動作を覚えることとは、脳の中の記憶の仕組み、神経の中を信号が走る道筋=パターンをつくるという意味では、基本的に同じと考えてよいのです
勉強して覚えたことを発信するのは、脳の命令で筋肉が行う。筋肉には記憶力がない。すべては「脳」が指令し行っているというのだ。
運動神経が悪いのは遺伝だとよく言われるが、これは間違っているのだそうだ。最初からそれを言い訳に環境的にやらせない。身体を使わせることなく、脳に負担のあることばかりさせた結果、日本人の学力は落ちた。深代は東大の入試に体育を入れるべきだと主張する。飛びぬけた必要はなく、走る、投げるなどの最低限の運動能力が培われていないと、伸びない。古くから言われている「文武両道」それこそが、今必要であるということが、心の底から納得できる。
長田渚左は無料のスポーツ情報誌『スポーツゴジラ』の編集長である。このインタビューは当初、その雑誌に掲載され大評判を呼んだ。大幅に加筆修正されており、東大卒のプロ野球選手とJリーガーの取材も一読の価値がある。筋肉隆々の学者が日本には絶対必要なのだ。