著者インタビュー 『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』仲野徹氏(その1)

2012年2月13日 印刷向け表示
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「おそろしいことを発見した。HONZおすすめの本をAmazonでぽちると、HONZ の別の本を薦めてくる。ということは、けっこうな数のHONZ中毒者がAmazonでぽちらされているということだ。そのうち無限連鎖講防止法適用されるかもしれん」

 

わがHONZに対して、とある研究者から、上記のような言葉が投げつけられたのは3日前のこと。あの『白い巨塔』に登場する浪速大学のモデルとなった大阪大学医学部の教授らしい。他にも「非合法活動に認定されるのでは」とか「あの悪名高い団体」などと言っており、また最近では「HONZの霊がのりうつった」という科学者らしからぬキケンな発言さえしているようだ。

 

HONZ被害者の会結成の動きが見られるなか、これは到底看過できない。ということで、成毛眞代表とともに、新幹線に乗って大阪に向かったのである。

 

 

 

大阪に到着し、大阪ならではのキンキラバッグを発見。思わず写真を撮る代表。

 

 

大阪に来たという感じです。代表、そんなことしてないで、早く行きましょう!

 

 

 

 

 

 

でも、とりあえず本はチェックしないと……。

 

 

@大阪民博見たことない面白そうな本がいっぱい♡

 

 

 

 

 

 

ということで、なかなか着けないのであったが、ようやく敵の懐にたどり着く。

迷宮の如き建物のなかで迷った末に……

 

 

 

ここだ!

 

 

 

 

 

 

大阪大学大学院 生命機能研究科・医学系研究科の仲野徹教授である。

 

 

仲野徹先生不敵な笑みでわれわれの抗議を受け流す仲野センセイ

 

 

 

 

 

 

実は、大阪まで訪れた目的は、冒頭の発言以上に、猛烈に抗議すべき重大な問題があるからである。

 

↓この本だ。

なかのとおるの生命科学者の伝記を読む

作者:仲野徹
出版社:学研メディカル秀潤社
発売日:2011-12-16
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まずは、成毛代表がHONZに発表したこの抗議文を読んでいただきたい。この本は酷い、としか言いようがない。本読みのとってのもはや禁断の書。やさしく、やわらかく、知的でかつ笑える魅惑的な文章で、さまざまな伝記が紹介され、すべてが欲しくなる。しかも絶版本も多く、amazonマーケットプレイスで安く売られていたものは、成毛および成毛のレビューをいち早く読んだ奴らが手中に収めている。もし本が好きで、まだ本書を読んでいない方は決して読んではいけない。でなければ、成毛眞以上にひどい散財をせざるを得なくなるだろう。仲野先生にHONZを非難する資格などないことは明らかである。

 

 

この本を読んで成毛眞が思わず買ってしまった伝記の数々この本を読んで成毛眞が思わず買ってしまった伝記の数々

 

 

……というわけで、ひどく散財させた代償として、いそがしいなか、無理やり著者インタビューをさせてもらったわけです。いやー、面白かったです。楽しかったです。すごい人です。ということで、著者インタビューの前編スタートです。

「人間的な繋がりがあってものごとが進んでいる」

 成毛 僕、結局14冊買わされました。とはいえ、絶版している本が多くて悲しいですよね。

 

仲野 悲しいです。まず、生命科学者の伝記というもの自体がそれほど多くは出版されないですよね。目についたら必ず買って読む、というふうにはしてますから、生命科学関係の伝記のほとんどを読んでるんじゃないか、というほど読んでいると思います。しかし、やはりその後絶版になる本が多い。特に最後に書いた『分子生物学の夜明け』なんか、まさにバイブルのような一冊ですよ。本当に残念ですね。

 

成毛 一般的に生命科学をおやりになっている先生というのは、科学者の伝記を読まれる方は多いのですか?

 

仲野 いやー、僕もみんなもうちょっと読んではるかと思いましたが、ほんと読んでないです(笑)。だから多分、伝記を出したところで、ほとんど売れないんでしょうね。

 

成毛 本を読むと、インタラクションが面白いですね。この研究がこう繋がっていったという……。

 

仲野 別にそれを意図して選んだわけではなくて、本当に趣味の赴くままに選んだら、結果としてインタラクティブなことになりました。僕も知らんことがいっぱいありましたからね。ノーベル賞を取った人の大きな研究室から、その後のノーベル賞受賞者が何人も出ているというのは、それほど不思議はないんですけどね。リタ・レーヴィ=モンタルチーニのところで触れた、1930年前後のイタリアのトリノ大学医学部で、三人もノーベル賞学者が出るというのは、もう奇跡。逆に彼らを教えていた先生ってむちゃくちゃ偉かったんちゃうかな、という気がするんですよね。今は先生がえらいと言うより業績がえらい、という感じになっていますが、昔は違ったと思うんですよね。年寄りくさいな、と思われるかも知れませんけど。

 

成毛 わかります。今、ちょうど来るときにファインマンの伝記、『ファインマンさんの流儀』という本を読んでいたんですけれども、ファインマンは高校のとき、物理の先生に「最小作用の原理」を特別に教えてもらったそうです。その先生も偉いですよね。教育者としてね。

 

仲野 内田樹さんが言われるように、師弟関係においては、先生がえらい、と思った瞬間に先生がえらくなるわけで(『先生はえらい』)。 今ちょっとね。まあわれわれにも責任があるんでしょうけど、そういう感じがなくなりすぎてるんじゃないかというのが、この本を書こうと思ったひとつの動機です。そういう人間的な繋がりがあって、ものごとが進んでいる。今は、ものすごいドライになっているなぁ、という感じがしますけどね。

 

 

抗議のはずが楽しそうに話す二人

 

 

「佐野眞一」系のロザリンド・フランクリン伝が読みたい

成毛 取り上げたなかで、一番気に入られているのは、どの本でしょうか。

 

仲野 どれも気に入っているんですけどね、絶対書いておきたいと思っていたのは、野口英世アレクシス・カレル、それからロザリンド・フランクリン。この3人ですね。野口英世を書いてみたい、というのは、非常によく書けているあの伝記があったから。これ書いてから、絶版やったのが復刊されたんですよ。ルルドの泉で奇跡を見てしまったカレルはものすごい不思議ですし、ロザリンド・フランクリンは、ああいうことがあったので、その3人ぐらいは書いてみたいなと。

 

成毛 ロザリンド・フランクリンについては、もう一冊ぐらい、ガチガチのノンフィクション・ライターに書いて欲しい気がしますね。

 

仲野 取り上げた本は、「ネイチャー」の名編集長だったジョン・マドックスの奥さんのブレンダ・マドックスが書いた。書いた当時はジェームズ・ワトソンはもちろん、一緒にノーベル賞を取ったフランシス・クリックもモーリス・ウィルキンズもまだ生きていた。だから、これ以上公平な書き方はない、というぐらい、ものすごい慎重な書き方になったんだと思います。相手はノーベル賞学者ですから、そういう配慮はあったんじゃないですかね。おっしゃるとおり、もっと面白く書けるんじゃないかな、という気はしますね。

 

成毛 文系の感覚からすると、それこそ佐野眞一じゃないですけど、小説だかノンフィクションだかわからないような感じのを読んでみたいですね。

 

仲野 ああ、「佐野眞一」系ね。絶対面白いでしょうね。でもロザリンド・フランクリンにとっては迷惑な話だと思いますよね。ワトソンが自著の『二重らせん』であんなふうに取り上げなければ、まあ非常に優秀な研究者の一人として名が残っていただけなのに、「いっぱい悪口言われた」みたいになっちゃって。ちょっと書きましたけど、ちょうどフェミニズムの時代で、ロザリンドを擁護する側にも勢いがありましたし、今やったら、最初から冷静に論評されると思うんです。『二重らせん』が爆発的に、むちゃくちゃに売れましたから、そうなったんやと思いますけど。

 

 

denkiこの本で取り上げられている伝記の数々も仲野先生の書架にあった。付箋の数がスゴイ!

 

 

「偉人伝の読みすぎがいけない!」

仲野 アメリカの本屋に行ったら、バイオグラフィの棚って、大きいんですよね。

 

成毛 大きいですよね。例えば南北戦争時代の将軍たちのものだけでも、ものすごい数ありますもんね。

 

仲野 今の学生は、野口英世の伝記さえ読んでないやつがいますからね。これはもう由々しき問題だですよ。なんで日本人が伝記を読まないのかというと、子どもの頃、偉人伝を読み過ぎたんじゃないか、と思っていて。 偉人伝て、おもろい、言うたらおもろいけど、おもろない、言うたらおもろないでしょ。なんかネガティブな刷り込みがされてるんちゃうかな、という気がするんですよね。

 

成毛 エジソンとかキュリー夫人とか……

 

仲野 キュリー夫人の伝記も大人になってから読むと、キュリー夫人がラジウムなんかを発見してノーベル賞もらって、夫のピエールが馬車に轢かれてなくなったあと、不倫をするところぐらいがいちばんおもろいんですよね。決闘未遂があったりして。子どもの本にそういうことを書くことはいかんと思いますけど(笑)。3年前にマリー・キュリーの孫というのが日本に来たんですが、ランジュバンという苗字なんですよ。キュリー夫人の不倫相手の名もランジュバンだった。つまり、キュリー夫人の孫とランジュバンの孫が結婚した。そういうのを聞いて、ええ話やなぁ、と思うんですよ。子どもの頃の「偉人伝トラウマ」を捨てて、大人が伝記を読んだらもっと面白いんちゃうかなぁ、と思いますね。

 

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さてさて、このあたりからおもむろに研究室内の書架を物色し始める成毛眞。なにやら面白そうなものを見つけ出す。この後話はあちこちに飛びながら、話は尽きない二人。その模様は後編にてお届けする。

 

加えて、われわれからの抗議ゆえか、仲野先生がHONZにタダでレビューを書いてくださることにもなった。さらにはなんと、3月のHONZ朝会にも出席して下さるという。仲野先生の選書と、買書欲を刺激するやわらかな文章は実に素晴らしい。散財したくない人は、いずれアップされるレビューも読まないように注意されたし。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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