ああ、肉が食いたい。しかも飛びきり上等なヤツ。飽きるほどお節を食べたわけではないのだが、そろそろ禁断症状が出ている。本書によると、こういう状況に陥ることをミートハンガーと呼ぶらしい。
しかし本書の著者こそが、真のミートハンガー・キングだ。人はなぜステーキを食べる時に牛について熱く語らないのか ― ワインを飲む時には、ぶどうの話を存分にするのに。そんな疑問を感じたところから著者の壮大なる旅路が始まる。本書で訪れた国は4大陸7ヵ国、45キロ分のステーキに舌鼓を打つことになる地球約10万キロ制覇の旅である。
いわゆるグルメ本と違い、歴史や考古学の分野に踏み込んでいるのが特徴的だ。例えばフランスで食したのは、ラスコー壁画にも描かれている野生牛オーロックス。しかもそのオーロックスを再生する技術は、著者の先祖を殺害したナチスによって開発されたものである。そんな複雑な背景を背負いながらも、著者はひたすら肉を食べることに邁進していく。
また、肉を食べるシーンの描写もシズルが満載だ。日本のステーキハウス瀬里奈を訪れ、神戸牛を食べた時のコメントは以下のようなもの。
牛肉ならではの甘くて木の実のような風味がしたものの、温かいバターでコーティングした絹糸よりもなめらかな食感と比べると、それすら付け足しみたいなもの。
ちなみに著者が瀬里奈の店員に、どれくらいの頻度で肉を食べているのか聞いたところ、「私は魚の方が好きでして」と、すました顔で答えたそうだ。おいっ瀬里奈!
最終的に著者は、食べるだけでは飽き足らず、自分で牛を育ててみることにもチャンレジしてしまう。はたして自分自身が手塩にかけて育てた牛肉のお味の評価はいかに?
ミディアムレアで読むのが、おすすめな一冊。