フィリップ・ボールが、完全に量産体制に入っている。「自然が作り出す美しいパターン」三部作の『かたち』『流れ』、年明けに発売される『枝分かれ』。その合間をぬって『音楽の科学』ときた。それにしても1年間に4冊の本は、なかなか出せるもんじゃない。
「あっ!」身近にいましたわ。今年4冊目の本を出された著者の方が。
それはさておき、本書『音楽の科学』は、心して掛かった方が良い一冊だ。なにしろ全620頁による圧巻のボリューム。さすがに気持ちが萎えそうになる。こういう時、僕は最初のページからは読まないことにしている。そんな訳で、一番肝になりそうな第10章「音楽はなぜ人を感動させるのか」をちょい読み。
この章で論点となっているのが、音楽による感情の喚起が先天的なものか、後天的なものかというものである。記憶や文化との結びつきで説明しようとするのが「参照主義」、すべて音楽自身の持つ力によると考え、音楽以外の背景状況などは一切ないと考えるのが「絶対主義」と呼ばれるそうだ。この議論は、数学は発明か、発見かという議論にも非常に似ている。また、音楽も数学もルーツを辿っていくとピタゴラスに行きあたるという点が興味深い。
その気になれば、この章だけで十分な量のレビューが書けるほどの読み応えである。時間のある時に、きっちりと向きあいたい。これは楽しみだ。