今後も地球温暖化が進んだ場合、自分たちが住んでいる地域は具体的にどう変わるのか。最先端の科学技術を駆使してその疑問に答えるのが、本書『ウェザー・オブ・ザ・フューチャー』である。
本書は、地球温暖化の影響を受ける代表的な地域を取り上げ、温暖化によって近い将来そこで何が起こりえるのか、最新の気候シミュレーションモデルを用いて予想する。地球温暖化の原理や経緯を解説するよりも、その影響について読者に具体的なイメージを描かせる事に主眼が置かれている珍しい本だ。
著者は、米国大気研究センターで勤務経験のある元研究者であり、現在は科学ジャーナリストとして活躍する女性。科学的に正確な知識を用いて地球温暖化の影響を解説している。『チェンジング・ブルー』(HONZ代表の成毛眞が「日本の科学ノンフィクションの頂点」と絶賛する本)の著者が解説者としてその正確性に太鼓判をおす。
取り上げている地域は、ニューヨーク、カルフォルニア、オーストラリア・グレートバリアリーフ、バングラディッシュ・ダッカ、アフリカ・サヘル地域、北極圏など、世界各地7地域。第5章以降、それぞれ1章を割いて、それぞれの地域の現在と将来を解説する。
第6章では、オーストラリア・グレートバリアリーフの危機を取り上げている。最新の研究によると、僕の2歳の娘が20代になる頃には、グレートバリアリーフのサンゴ礁はほぼ壊滅されている可能性があるそうだ。温暖化が進むと、海水温と海水の酸性度が高くなり、サンゴ礁は白化してしまい、全滅する恐れがあると言う。サンゴ礁の壊滅はダイバーを悲しませるだけでない。オーストラリア経済に4,000億円以上の貢献をしているグレートバリアリーフ関連の観光業が全て吹っ飛んでしまうことにもなる。
第10章は、2050年迄にバングラディッシュ国土の約25%が水に覆われ、大量の「気候難民」が発生すると予想する。気温の上昇による海面上昇、雪解け水の増加による洪水の多発。もともと脆弱な国が、気候変動によってさらに脆弱になってしまうことが予想されている。バングラディッシュの人びとにとっては、気候変動は理論上での問題ではなく、まさに生き残りをかけた問題であることがよく分かる。
各章の最後にある2050年迄の「40年予報」は一読の価値がある。僕の娘が25歳になる頃の世界では、グレートバリアリーフのサンゴ礁を楽しめないだけでなく、カリフォルニアワインが飲めなくなっているし、北極の氷は完全になくなってしまっているそうだ。もし娘がその頃ニューヨークに住んでいるのであれば、ハリケーンの度にニューヨークから脱出しないといけない環境になっている。さらにシミュレーションしていくと、彼女が40歳くらいになる2050年頃にはより状況は悪化しているようだ。かわいそうだ。
ただ、悲観的になりすぎる必要はないだろう。世界中で活躍するビジネスマンにとっては、このピンチはビジネスチャンスにもなり得る。今後人類が直面する危機に対する対応策を想像して、先行投資したもの勝ちだ。儲けるだけでなく、地球も救える。空中に光る微粒子を撒いて太陽光を反射させる等のジオエンジニアリング産業は伸びてくるだろうし、ダッカやニューヨークは災害に強い都市開発計画を立て直す必要もあるだろう。本書を読めば、30年・40年後の地球を想像できるようになる。これはかなり大きな財産だ。特に若いビジネスマンにオススメの一冊である。
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気候変動のメカニズムを知りたい方は『チェンジング・ブルー』
地球を冷やす技術に興味がある人は『気候工学入門』