1990年に東海村で発生した臨界事故の被曝治療を記録した一冊だ。この事故はずさんな作業管理のため、瞬間的に極小の原子炉が出現し、3人の作業者が至近距離で被ばくしたというものだ。亡くなった方の被曝線量は20シーベルトと推定され、これは一般人が1年間に浴びる限度の2万倍にあたるという。
3人が被曝したのは中性子線だ。体内被曝をするアルファ線とちがい、中性子線は外から身体を貫く。大量の中性子を浴びた人の遺伝子は瞬時にずたずたになり、修復不能になる。
事故直後は健康体に見えた患者も、83日後に亡くなるときには心臓以外のすべての臓器と、皮膚や筋肉までもが破壊され尽くされていた。その間も骨髄移植や大量輸血など、あらゆる処置が施された。亡くなる20日前には、皮膚から浸みだす体液や下血で一日に10リットルの水分が体の外に漏れだしていたという。
文庫版の解説をしている柳田邦男氏は自身が取材しつづけている原爆被害者とチェルノブイリ原発事故も引き合いにだしながら「大量の放射線が人間にもたらすものについて、わかったつもりになっていた。そのわかったつもりを打ち砕かれたのが、本書によってだった」を書いている。3月11日以来、連日の報道でわかったつもりになっている日本人全員があらためて読み返すべき本である。