2009年、ニュースで寺田学衆議院議員が日本のサイバー関連予算の削減を要求している姿を観て、我が目を疑った。明らかにサイバー・テロ及び犯罪が頻発している時代に逆行する行為だったからだ。
アメリカではサイバー犯罪に対抗する為に「サイバーコマンド」が創設されているし、NATO、韓国、中国もサイバー・テロに備える組織をそれぞれ創設している。サイバー犯罪及びその対策で世界の先頭を走るアメリカ・ロシア・中国に囲まれた日本はこんなにも無防備でいいのだろうか。
2010年、コンピューターウイルス「Stuxnet」の存在が明らかになり、欧米のメディアはこぞってこの件を取り上げた。イランの原子力施設で発見されたこのウイルスは、核燃料や核兵器の原材料製造のための遠心分離機を使ったウラン濃縮装置を誤作動させたのである(「Stuxnet」は、とても個人レベルで作れるような代物でなく、イスラエル・アメリカの両政府が中心となって作ったのではないかと噂されている)。あまり一般に知られていないが、世界中の原子力発電所関係者は地震よりもこのコンピューターウイルスを恐れているのが実情だ。
政府だけが標的ではない。企業や個人も標的になっている。ソニーや三菱重工へのDDoS攻撃(標的とするウェブサイトに大量のデータを送りつけて機能をパンクさせる攻撃)は記憶に新しいし、個々人でウイルスによって個人情報が盗まれているケースは多い。2009年の調査では、アメリカ国民の約30%が個人情報盗難の被害にあっていることが判明している。日本でも、最近ウイルス「ガンブラー」に感染して多くの個人情報が盗まれている。
本書『サイバー・クライム』は、上記ポイントを指摘するだけでなく、今や国際規模で行われているサイバー犯罪の実態を、世界で始めて赤裸々に明かした衝撃的なノンフィクションである。メイン・ストーリーは二人の主人公を中心に進んでいく。一人は20代後半(当時)の天才コンピューター・セキュリティー専門家。もう一人は英国サイバー犯罪対策庁の捜査官である。
天才コンピューター・セキュリティー専門家は、サイバー上の潜入捜査によって国際的にサイバー攻撃を仕掛けるハッカー・グループがロシアにいることををつきとめ、英国捜査官がロシア警察と協同してこのハッカー・グループを逮捕・起訴するのである。この二人がハッカー・グループを追い詰めていく様子は極めてスリリングであり、手に汗握りながら読み進めることになる。読み物として一級品の本だ。
ロシア・中国の現政権がサイバー攻撃を積極的に利用していることも記されている。しかも、ロシアは効率的にサイバー攻撃できるようマイクロソフトの欠陥を入念に調べているようだ。2010年にFBIが一斉検挙した美女を含む12名のロシア人スパイの中の一人であるアレクセイ・カレトニコフは、マイクロソフトで勤務し同社のソフトウェアの欠陥に関する内部情報を漏らしていたと疑われている。まるでスパイ映画のような話だが、実話である。ロシア・中国の実情を説明する333頁以降は読み応えがある。
今やサイバー犯罪市場は10兆円を越えており、麻薬市場を凌ぐほどに成長している。そんな時代にサイバー犯罪に無知な状態は相当危ない。本書を読んで実態を把握し、手遅れになる前に対策をうつことをオススメする。
(実際、私も前のPCが昨年末に「ガンブラー」に感染してしまった為、パソコン及びアカウントを今年に入って全て一新したところである。最近、変なスパムメールを受け取った覚えがある人は気をつけた方が良い。そのメール若しくは添付ファイルを開いた瞬間、パソコン内の機密情報は盗まれPCは他人に乗っ取られる。一度乗っ取られたPCは誰かに操作されてサイバー・テロやサイバー・クライムに使用される可能性が高いのだ。。。)
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『世界サイバー戦争』
ホワイトハウスの元テロ対策大統領特別補佐官の書。敵国がアメリカにサイバー攻撃を仕掛けてきた場合、電力網・航空管制システムが機能停止になる可能性があると警告している。
ウイルス繋がりでこちらもオススメ。ウイルスを撃退させたい人はこちら。