AIの進化が止まりません。出版業界でもChat GPTの特集記事が出た雑誌が爆発的に売れるなど、売行き傾向にも影響が見られるようになってきました。一方で、人間とAIの違いについて考えるような本も人気です。そんな流れもあって“ことば”について考える『言語の本質』が話題になっています。
なぜヒトは言葉を持つのか、どうやっておぼえるのか…などなど今の時代に知っておきたい、考えておきたいテーマ盛り沢山の1冊。この他にも気になる5月新刊は沢山。その中からいくつかを紹介していきます。
ただ、科学の発展の歴史の裏側には“一線を越えてしまった”異常な科学者の姿も見えてきます。例えば、ニュートンは奴隷を使ってデータ収集をしていて、エジソンだって犬や馬に電流を流すような残酷な実験もしていた、と聞けば、そういった黒歴史が遠い世界の話ではなく、身近な便利に繋がってきているのだということもわかります。
今では倫理的に許されない実験も多く行われていました。もちろん単なるマッドサイエンティストもいそうですが…。人類が産み出しつつあるAIという希望であり脅威とどう付き合って行くか、というヒントもこういうところから見えてくるかも知れません。
これまで、植物や幻覚剤についての本を多く出版してきた著者、マイケル・ポーランが、薬物としての作用を持つ植物について効果・意義を解き明かしたというノンフィクション。テーマからしてかなり刺激的ですが、何がすごいって本人がその影響、植物が意識にもたらす“変容”を体験した、というあたりが衝撃です。
アヘン系のケシの実、カフェイン系のコーヒーノキ、幻覚を見せるサボテン・ペヨーテを体験したようですが、この植物たちは人間を虜にすることで種としても生存してきたという物語をももっています。これらを多岐に論じた気になる作品です。
数年前、郵便局長が顧客データを政治活動に流用していたという事件が世を揺るがしました。その政治活動の指示を行っていたのが、全国郵便局長会。組織代表を国会に送り込むための集票能力はピカイチと言われるその組織はどういったものなのでしょうか。朝日新聞経済部の記者が証言、内部資料などから明らかにしていきます。
コロナ禍で、エッセンシャルワーカーとして認知された「看護師」。健康と命を守るための仕事ですが、過去には賤業と見なされていた時代もありました。著者、田中ひかるさんはこれまでにも『月経と犯罪』などの女性に関する本を多く執筆してきました。前著『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』に続き、医療と看護婦の技能向上に生涯をかけた人物に迫りました。この大関和さん、元々は家老の娘だったそうですが、そこから賤業といわれていた看護婦の道に飛び込みます。その生涯を追った1冊。
木材には10億ドルにもおよぶ闇市場があるのだそうです。その根幹にあるのが盗伐。一方で、この本の惹句でロビンフッドが使われているとおり、木を盗むことには社会への抗議行動の意味もあります。もともと伐採で生計をたててきた地域というものがありました。しかし、原生林を守るため作られた自然公園の拡張によって、その地域の人たちは立ち退きを余儀なくされます。その森は誰のものだったのか、そこで暮らす事は許可されるべきことなのか、それとも許されざる事なのか。原生林をめぐって生きる人たちの全てを追ったノンフィクション。
*
例年、4月~5月は人付き合いや、話し方に関する本が良く動くのですが、今年はノンフィクションでもそういったタイトルが目立ちました。科学・技術の進化を目にしたときに、人としてのあり方を見直してみるというのは大事なことなのかもしれません。今年は梅雨の始まりも早くなりそうです、雨の日にじっくり読みたい本が続々出版されています。ぜひ書店店頭に足を運んでみてください。