『知っておきたい地球科学』「地を学ぶ」とは人間の生き方を追究すること!

2023年6月7日 印刷向け表示
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作者:鎌田 浩毅
出版社:岩波書店
発売日:2022/11/22
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地球の成り立ちを研究する学問は「地球科学」と呼ばれ、高校の教科では「地学」として教えられる。地球は宇宙空間に浮かぶ星の1つだが、太陽を周回する惑星でもある。太陽系の第3惑星で、46億年という途方もなく長い歴史をもつ。

本書は最先端の地球科学を解説した入門書である。選んだ項目は「地球・生命」「環境・気象」「資源・エネルギー」「地震・津波・噴火」の4項目で、高校で教える地学の内容も網羅している。 2021年より『週刊エコノミスト』誌上で連載した「鎌田浩毅の役に立つ地学」を基にして、その後の新知見を取り入れ全面的に加筆修正を加えた。つまり、連載「役に立つ地学」の中でも「知っておきたい」項目を厳選して、初心者が通読できる内容に作りかえた。

特に、地球科学を学んでいない人にも理解できるように難しい数式を省き、できるだけ専門用語を噛み砕いて説明した。理科の苦手な文系読者にとって身近な情報の提供を心がけ、現代のビジネスパーソンに必要な地震・噴火・気象災害などの喫緊のテーマを取り上げるようにした。

よってタイトルは『知っておきたい地球科学—ビッグバンから大地変動まで』だ。日本列島で安全にかつ豊かに暮らすために最低限知ってほしい知識と概念を伝えるように工夫してある。

さて、46億年前に地球が誕生し、38億年前には最初の生命が海で誕生した。そのあと人類まで途切れることなく続く生命の歴史も、地球の重要な構成要素である。

広大な宇宙の中で、地球のように生命が確認された星は今のところない。たとえば、植物が地表を覆い尽くすようになり、それらを食料とする動物が繁栄すると、生物自体が地球環境を変えるようにさえなった。

他にも、人類の活動は、何億年もかけて自然に蓄積された石炭や石油などの化石燃料を燃やすことで、大気中の二酸化炭素を増やしてきた。地球温暖化は人類が地球環境を改変する力を持ってしまった結果とも言えよう。よって、現代の地球環境問題も、地球科学の取り扱う重要なテーマとなる。

あえて地球科学の目標を一言で表すと、「我々はどこから来て、我々は何者で、我々はどこへ行くのか」という問いに回答を与えることとなる。これはフランス印象派の画家ポール・ゴーギャンが1897~98年に描いた大作絵画のタイトルで、我々地球科学者お気に入りの名文句でもある。

実は、地球の歴史の過程では夥しい数の偶然が作用しており、「再現性」という科学の基本がほとんど成り立たない。「地球」という宇宙空間で唯一無二の物質を扱うからだ。これが、物理や化学と最も異なる点でもある(鎌田浩毅『地球の歴史』中公新書)。

このように地球科学には「歴史科学」という特徴がある。歴史と言えば高校教科にある世界史と日本史が身近だが、対象領域を変えるとさまざまな通史が成り立つ。そして地球の歴史は、世界史を構成する国家ができる前、さらに人類や生命そのものが誕生する以前の歴史を対象とする。時間・空間的に極めて広い範囲を扱うのだ。

さて、昨今は別の意味で地球科学が必要とされるようになってきた。日本列島では地震、火山噴火、異常気象など地球にまつわる想定外の現象が頻発している。

その理由の一つは、2011年に東日本大震災が発生し、1000年ぶりの「大地変動の時代」に入ったからだ。

東日本大震災以後も熊本地震や御嶽山噴火などの災害が続いているが、今後数十年は地震と噴火が止まないだろうと我々は予測している。さらに東日本大震災の被害を一桁も上回る「南海トラフ巨大地震」という激甚災害が近未来に控えている。

こうした現象を理解し、災害をできるだけ減らすために予測と制御を行う際には、地球科学が必要となる。実は、地球科学は他の教科と比べても我々の日常生活にもっとも近い学問なのである。

地球上に人が住める環境は太古からあったと思いがちだが、それは大きな間違いである。現在の温和な地球環境は、幸運な偶然の積み重ねの上にできたからだ。つまり、過去に起きたおびただしい事件が、今の奇跡的な地球環境を作った。

視点を変えれば、私たちは「偶然に生かされている」と言っても過言ではない。しかも、たいへん面白いことに、何10万年という地球独自のリズムに沿って、生物は生かされているのである。

たとえば、氷期と間氷期が交互に到来し、地震や火山の噴火が起きるリズムである。地球の変動は生物にとっては大きな試練となるが、地球にとってはごく当たり前の現象である。

近代以来、私たち人類は当然のごとく地球上を支配してきたが、実際には地球という「母なる大地」に生かされている小さな存在である。地球の豊かな環境がなければ決して生きてはいけなかった生物なのだ(鎌田浩毅『世界がわかる資源の話』大和書房)。よって、地球科学を学び地球の壮大な姿を知ると、自然に対する「畏敬の念」が生まれてこよう。

私は多くの人が自然現象に関心を持ち、「科学離れ」の風潮を少しでも食い止めたいと希望している。「地を学ぶ」、地球科学とはすなわち、地球と宇宙、大気、海洋について学び、ひいては人間の生き方を追究する学問なのである。

作者:鎌田 浩毅
出版社:中公新書
発売日:2019/4/12
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作者:鎌田 浩毅
出版社:大和書房
発売日:2023/6/10
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