4月に入り、文芸書コーナーは大型新刊や本屋大賞受賞作品などで賑わっています。ノンフィクションジャンルでは以前もこちらで紹介した西加奈子さんの『くもをさがす』が大ヒット。乳がんの告白という衝撃のニュースとともに、多くのメディアなどでも取りあげられベストセラー街道まっしぐらの活躍を見せています。
これから話題になりそうなのが『沖縄の生活史』でしょう。
2021年に刊行され大ヒット作品となった『東京の生活史』は聞き手、語り手それぞれが紡ぎ出した壮大なインタビュー集でした。この『沖縄の生活史』も同様の形式を取り、沖縄の生活史を紡ぎ出していきます。日本復帰50年を迎えた沖縄で、その時代を生きてきた人たちの生活を文章に残そうとした沖縄タイムス社の企画。資料としての価値も高そうです。
来月発売予定の新刊から気になったものをいくつかピックアップして紹介していきます。
春がどんどん早くなったと思ったら真夏のような暑さ。身近な気候から、地球温暖化の影響を感じる事が増えています。
では、人間がいなくなったとしたらその環境は回復するのだろうか。それについて考えたのがこちら。世界にはあちらこちらに「人間がいなくなった土地」があります。災害の後、放射能の汚染、戦争…そういった土地で自然はどうなっているのかを追った作品です。
著者はBBC特派員を経て伝記作家として活躍している人物。8年がかりの取材によって書かれた本ですが、ロシアのウクライナ侵攻後についても加筆しての出版となります。
幼少期や青年期から、その後得た考え方はどちらに向いていくのか。発言の変化までを比較考察、分析していくという意欲作です。昨今多くのプーチン考察本が出ていますが、こちらも見逃せない1冊になりそうです。
家庭内に虐待やネグレクトなどが恒常的に存在している「機能不全家庭」。ここで起きる貧困や虐待の連鎖は、社会的にも大きな問題になっています。著者はアルコール依存の父、過干渉の母、家庭内暴力を行う兄という家庭で育ちました。幼少期に「死にかけた」という状態から、どう回復し、どう負の連鎖を断ち切ったのか、その道のりを描くノンフィクション。
例えば「品不足だと勘違いしたため、買い占めが起こって本当に品不足が起こる」といった、思い込みに基づいて大勢が行動してしまうことを「集合的幻想」といいます。ありもしない事を皆で信じてしまうことは社会に大きなダメージを与えます。が、コロナ禍中にもこういう場面をいたるところで見ましたよね。
人はなぜこういう幻想にとらわれるのか、打破する方法はあるのか?ぶれずに正しい道を歩むために知っておきたい行動の秘密が描かれています。
コロナ禍にワクチンを開発した社の内幕が次々と出版されています。ファイザーの様子を描いた『Moonshot』の刊行も記憶に新しいもの。この『ヴァクサーズ』はアストラゼネカの開発の裏側を描いたノンフィクション。2020年1月、オックスフォード大学の片隅でワクチンの開発をはじめたサラとキャサリン。しかし、感染者が急増する中で、これまででは考えられなかったような方法で治験と量産を進める事になります。
著者、アントン・ツァイリンガーは22年のノーベル物理学賞の受賞者です。
まるでSF小説に出てくるようなテーマですが、量子の世界で成功した「テレポーテーション」の歴史と基礎を解説する入門書がこちら。アインシュタインも悩んだ“量子もつれ”が理解でき、これからどのような未来が開けてくるのか。そんなことも理解出来るようになるかもしれません。
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社会人の学び直し「リカレント教育」が様々なところで取りあげられています。これが目指すのは仕事で必要とされる能力の学びですが、学びの前に、様々な世界を知るということも大事ではないかなと考えたりします。ノンフィクションには、自分が体験していない多くのリアルが眠っています。次の自分の興味を見つける一助にもなるのではないでしょうか。そろそろゴールデンウィークです、素敵な本との出会いがありますように。