12月に入り書店店頭はクリスマスと年末年始商品で盛り上がっています。さらに12月に盛り上がりを見せたのがサッカー。ワールドカップ関連の本も多く発売されてきています。
サッカーに関しては、ノンフィクションジャンルでも様々な本の出版が相次いでいます。1月には『オシムの言葉』などを送り出した木村元彦さんの最新作が発売になります。
これまでも、サッカーと民族問題に切り込んだ作品が多く、『誇り』『悪者見参』『オシムの言葉』など旧ユーゴサッカーシリーズは代表作ともなっています。
今回テーマに掲げたのはコソボ。コソボでNATO空爆以降続いていると言われる市民の拉致・殺害、臓器密売事件の真実にサッカー視点を軸に迫ります。コソボの民族紛争と悲劇を追いかけた最新ノンフィクション。
これから出る本は他にも注目本がいっぱい。気になったものをいくつか紹介していきます。
これまで多くの作家評伝を送り出してきたノンフィクション作家、猪瀬直樹さんがテーマに選んだのは“石原慎太郎”。東京都知事と副知事としてタッグを組んでいた二人は、作家同士でもありました。作家としてたびたび語りあったという中から見えてきた石原慎太郎の素顔を描く注目評伝です。
著者、ウィリアム・ノードハウスは2018年のノーベル経済学賞を受賞した人物。温暖化ガス排出に課税をするという「炭素税」提唱者としても知られています。経済成長を図るにはGDPという指標しかなかったものの、これからの世の中はそれではいけない!というのが大きな方向性です。2023年はより環境を重視したコト、モノが大事な年になるでしょう。そんな複雑な世の中を読み解くための助けになる1冊。
著者、キャス・サンスティーン教授は『グリーン経済学』に推薦のコメントを寄せています。この1年、リチャード・セイラー、ダニエル・カールマンなど歴代のノーベル経済学賞受賞者との共著次々に刊行されてきましたが、今回は単著。
『NUDGE』ではより良い行動を促す行動経済学を語りましたが、今回のテーマは悪い行動経済学、ヒトの理性的な意思決定を妨げる悪いナッジ=スラッジについて解説します。
近年、芸能界からのハラスメント告発が増え目立っていますが、美術の世界でもこういった問題が大きくなっています。ギャラリーストーカーとはアーティストにつきまといを行う事。ギャラリーで作品を展示する作家に対して、しつこくつきまとったり、身体を触ったりといったハラスメントをすること。弱い立場である作家は泣き寝入りになっているコトも少なくないといいます。この実態を追い続けた猪谷千香さんによる告発の1冊。
『世界からバナナがなくなるまえに』など生物に関するノンフィクションを多く送り出してきた研究者ロブ・ダンの最新作。生物学には一定の法則があり、そこに対して「ヒト」を当てはめたら新しいコトが見えてくるのだと言います。
気候変動に対して、人類はどう対応していけるのか。パンデミックはこれからも続くのか。ヒトは絶滅するのか、したらどうなるのか?など気になる話題が盛り沢山。
2022年の今年の漢字には「戦」が選ばれました。様々な「戦い」が意識されての選考ではありますが、やはりウクライナ侵攻の影響が大きかったでしょう。そして、ウクライナ問題は混迷のまま年を越すことになりそうです。
侵攻から1年を前に、書籍の刊行予定も増えてきています。こちらは小泉悠さん監修による1冊。ワグネルとはロシアの民間傭兵組織。今現在も世界各地で軍事工作を行い、リクルートを行っていると日々ニュースを賑わせている存在です。その元司令官が綴ったのがこちら。活動の実態が明らかにされています。
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いよいよ2022年も終わりが近くなってきました。残念ながら明るい話題より暗い話題や暗いテーマのノンフィクションの方が多く見えます。ただ、一方で、各分野の最新技術や研究中の技術に触れることで、明るい未来も見えてくると思うのです。「課題は多いけれど、それに挑む人も多く、人間も確実に進化している」読書を通じてそんなことを感じた1年でした。皆さんにも素敵な本との出会いがありますように!