本書は、年寄りが二人、本気で日本の将来を心配して行った真摯な対談である。
まあ、そんじょそこらの年寄りではなく、ひとりは東京大学の名誉教授で解剖学者、『バカの壁』(新潮新書)などのベストセラーを持つ84歳の養老孟司さん。もうひとりは山梨大学や早稲田大学で教鞭をとり名誉教授に。現在では「ホンマでっか⁉TV」で人気を博す75歳の生物学者、池田清彦さんだ。彼らの共通項は趣味の「昆虫採集と研究」である。
虫という微小な世界と専門分野である自然科学の両面から世の中を分析し、喫緊に解決が求められている大問題の解決案を探っていく。
第1章は新型コロナ対策やロシアのウクライナ侵攻などを絡め、日本という国がうまく機能しなくなった理由を“世間”によって動く日本人の民族性から考えていく。
第2章は「お金」の問題。貯め込みがちな国民性や、お金をかけるべき場所を見誤った政府など、失われた30年の経緯がみえる。
第3章はAIの活用法だ。二人とも人体や生物を相手にする専門家であるがゆえ、デジタル化によって現実を見極める必要性を説く。
第4章以降は今後直面する自然災害への解決策を提言。日本は世界に類を見ない自然災害の国であることを自覚し、大地震や噴火、環境問題に対し、政治や経済を含めた包括的な備えと解決策が必要、とわかりやすく解説する。
結論となる最終章で討論されるのは「日本人の幸せ」。特に養老さんは戦中戦後の雰囲気を覚えている最後の世代かもしれない。なんとなく醸し出される空気によって動いてきた日本のあり様をつぶさに観察してきたのだ。
彼らは専門の世界に生きながら、その世界をはみ出して知見を広めてきた賢人たちである。これは「年寄りのたわごと」などではない。迷いを持つ者にとって「老馬の智」こそいま必要な知識である。(婦人公論2022.11月号)