9月はノンフィクション豊作の月となりました。特に『自民党の統一教会汚染追跡3000日』ほか宗教関連のノンフィクションが大きく注目を集めランキングを牽引しています。翻訳ノンフィクションも『因果推論の科学』や『格差の起源』など大物新刊が相次いで刊行されています。
そんな中で勢いを見せているのが『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』です。すっかりお馴染みになった日記シリーズ最新刊。最近不祥事が続くM銀行の現役銀行員の日記ということで、これまでの日記シリーズファンだけでなく、経済小説本好きの読者や銀行業界などでも幅広く読まれているようです。
他にはどんな本が発売され、売れていたのでしょう。9月に出た注目作品をいくつか紹介していきます。
9月は気になる人体関連本が多く出版されていました。こちらは”ヒト生物学”の最前線に迫る1冊。
著者の前作は『美しき免疫の力』というタイトルで邦訳され話題となりました。スポーツの秋到来ということで、改めて日頃の運動習慣や健康と向かい合う方も多いかと思います。表面的な姿でなく、人体の奥深くまでを見ようとしている研究者の奮闘の物語をお楽しみください。
うつ病、不安障害、そしてアルツハイマー。現代社会に巣くうこれらの病気の原因となっていたのがミクログリア細胞という小さな脳細胞なのだ、とこの本は説いています。
ミクログリア細胞は脳を守る活動をする一方で、脳の破壊も行います。この働きを制御すれば、精神疾患の治癒も可能なのでは… 脳も免疫が働く器官であるという考え方は未来への光ともなっています。今後数十年の医療進化の礎にもなるノンフィクション。
バラク・オバマ元大統領の選ぶ年間ベストブックなど、米国の多くのベストブックに選ばれた話題の1冊がついに邦訳されました。12人の子どものうちなんと6人が統合失調症と診断されるにいたった家族の物語です。
この一家は、その後統合失調症の研究者たちから大きな注目を集めることになります。遺伝か、環境か。統合失調症とは何なのか。日本でも発売後に大きな反響を呼んでいる作品です。
英国を代表する施設となった動物保護施設「バタシー」。英王室や公的機関に引き取られた犬や猫の出身地として話題になることも多々あります。このバタシー、設立されたのはまだ動物愛護という考え方のなかったヴィクトリア時代のこと、一方で、この時代はドッグファイトなどの動物いじめが娯楽になっていたような時代でした。
この時代に、捨て犬を助けようと奮闘した一人の未亡人、トゥルルビー夫人の情熱が保護施設を産み出します。バタシーをめぐるノンフィクション。
著者、アナリー・ニューイッツはフィクション、ノンフィクション両方の書き手として知られる作家。既刊の『次の大量絶滅を人類はどう超えるか』も大きな話題となりました。今回は、実際に消滅してきた古代都市に焦点を当てた作品で、原著も話題の書となっています。
古代都市4都市がどう滅んでいったのか、なぜ滅んでいったのか。過去を読み解くことは、都市の未来のあり方を考えることにも繋がるのではないでしょうか。
”ポリティカル・コレクトでない研究結果だからといって真実ではないわけではないし、ポリティカル・コレクトな主張だからといってそれが真実だとは限らない。事実にもとづかない告発に脅かされる研究者や、科学的証拠にもとづかない医療の不利益を被る患者のために、なにが守られるべきなのか。真実を希求した一人の研究者による、渾身のルポルタージュ。”
『FACTFULNESS』や『ストーリーが世界を滅ぼす』が話題になり評価されたという文脈からも紹介したいと思った作品でした。真実を追究することは一方で当事者への不利益をもたらす事にも繋がり、だからこそ大きな議論の的となります。内容的にも価格的にも重い本ですが、このテーマや議論を多くの人に届けたいと思うのです。
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9月に入り、酷暑が通り過ぎたと思ったら今度は台風。天候に恵まれない日々が続いています。
家から出たくない日にはゆったりとした読書の時間をもって知識を蓄えてみてください。