5月。久しぶりに何の宣言もない、コロナ前の景色に戻ったようなゴールデンディークに始まった月でした。
ノンフィクション本ジャンルでは過去にも多くの著書のある江森敬治さんが書いた『秋篠宮』が大きな話題になっています。また、新書中心に歴史関連書も好調です。5月発売の新刊では『戦国武将、虚像と実像』がヒット中。
5月28日に満期出所を迎えた重信房子の最新著作『戦士たちの記録 パレスチナに生きる』も注目新刊と言えるでしょう。
それではここからは、5月に出た注目作品をいくつか紹介していきます。
本の紹介を見て、小説かしらと思っていましたがノンフィクションでした。それほどにSFのようなお話です。自動車王のフォード、発明王のエジソンがタッグを組んでぶち上げた「夢の町」建設プラン。1920年代当時からすると最新技術だったクリーン発電や幹線道路、そして自動車などを揃えた一大テクノユートピアを作り、貧困地域を蘇らせようという計画です。そしてなんと独自通貨も発行しようとしていた、と。
この夢の国は結局実現することはなりませんでしたが、裏側には悲喜こもごもの人間模様が繰り広げられていました。それらを余すことなく書いたのがこちら。ウーブンシティなど、いま世界各地でもこういった夢の町設計構想が出てきています。いまこそ読んでおくべき作品なのかもしれません。
気候変動対策が話題になっていますが、あわせて”肉食”に対する興味や見直しの機運も高まってきているようです。カーニズムとは肉食主義のこと、当然のように受容れている肉食主義の成り立ち、裏側から分析した作品。
5月に発売された『現代思想6月号』でも肉食主義を考えるという特集が組まれています。
ニューヨークタイムズ他各紙で取りあげられた話題の書が邦訳されています。一晩で10万人が死亡することになった東京大空襲。なぜこのような悲劇的な大規模空爆が行われたのか、そこに至るまでの様々な要因を分析していきます。
ピンポイントに必要な箇所だけを狙う精密爆撃は第二次世界大戦頃に可能になった技術だそうですが、この大空襲の裏にもこの戦争技術革新との闘いもあったようです。著者は多くの人気作を持つマルコム・グラッドウェル。この本はポッドキャストから生まれたオーディオブックファーストの作品だそうですが、そこにも技術と時代の進化を感じます。
世界的な新型コロナウイルスの流行が始まるまで、ジョンズ・ホプキンス大学という名前は全く知らずにいました。そういう人は多いのではないでしょうか。研究のための大学として設立された大学で、多くのノーベル賞受賞者も輩出している超難関大学なのだそう。
なぜジョンズ・ホプキンス大学はコロナ感染者の数を調べられるのか、どうやって調べているのか。そんな疑問を解消してくれる本が出版されています。いまや感染症に対する砦となったこの大学のコロナ禍との闘いを描いたノンフィクション。
なかなか刺激的なタイトル、かつ、POPな装幀のため手にとりづらい本になっているかもしれません。が、いたってマジメな社会論です。いま、世界的に高まりを見せる”新たな社会主義”がより幸福な女性の生き方をもたらしてくれる、と著者は説きます。
「出産する人はなぜ罰を受けるのか」「パンツスーツでは解決しない」など、女性なら直面し考えた事があるだろうキーワードが沢山盛り込まれた目次も気になる1冊。
著者インベカヲリ★さんは、前作『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』で本田靖春ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞にノミネートされた注目作家。5月にはこの『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』と『私の顔は誰も知らない』の2作品を一挙刊行しています。いまもっともアツいノンフィクション作家とも言えるでしょう。
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重厚、そして興味深いノンフィクション作品が続々出版されています。ぜひ店頭に足を運んでみてください!