90万部の大ベストセラーとなった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、英国地方都市に住む、母が日本人で父がアイルランド人の、中学校に上がったばかりの少年の成長を、母親のブレイディみかこさんが冷静に綴った成長譚だ。
続編である『ぼくは~2』(新潮社)では「ぼく」は13歳になった。このころの成長は著しい。背も伸び、大人の視点で世の中を見られるようになってくる。そこを踏まえて、イギリスでは「ビジネス」に関する教育を始めるようだ。
例えば「ぼく」が興味を持つ「音楽を商品化するためのビジネス」を具体的にプロモーションさせる授業がすごい。
「コンサートのプロモーターになったつもりで、クライアントに会場の提案をするためのプレゼン資料を作りなさい」という課題が出ると、ライブハウスを決めて出演者のセレクションや会場設営の図面をつくるだけでなく、機材の使用料や規則、担当者の連絡先まで調べ上げる。「ぼく」は緊張しつつライブハウスに電話をし、授業について説明してから必要なことを聞くと、担当者は丁寧に答えてくれるのだ。
1年間の成長で、人種、性、貧困などの差別に敏感になり、相手の立場を理解しようと、両親に尋ねながら、頭の中で考えを熟成させていく。
本書で「ぼくイエ」シリーズは完結するそうだが、10年後「ぼく」はどんな大人になって何の仕事に就いているんだろう。
この2年弱、誰もが初めての経験をした。新型コロナのパンデミックに前例は通用しない。学校も例外ではなかった。
桐光学園は川崎市にある幼稚園から高校まで揃った私立学校。中高は男女別学で、6年間の一貫教育を行っている。この学校の先生、生徒、保護者がコロナ禍の1年間をまとめたのが、桐光学園中学校・高等学校監修『学校! 高校生と考えるコロナ禍の365日』(左右社)である。
体育祭、文化祭、修学旅行すべてが中止になり、長い時間そのために練習してきた全国大会も無くなってしまった。学校に行くこともできない。どうやって勉強したらいいのか、どう教えたらわかってもらえるか、それぞれの試行錯誤が語られる。
2020年3月1日、桐光学園は前代未聞の長期休校を迎えることになった。途方に暮れるなか意外な力になったのは建築家の理事長。病院やホスピスの設計の知識が、もし誰かが罹患した場合の対策を立てるのに役立った。
初めて担任を持つことになった教師、定期演奏会が中止になった吹奏楽部員、教科書の発送を担当した学年主任、モチベーションの維持に努めるスポーツ部員、勉強法を工夫する受験生など知恵を働かせた対応に驚かされる。
不可抗力に振り回されたが、若者は柔軟かつ真摯に対応し、その成長は目を瞠るものだった。これからが楽しみだ。(小説新潮2021/12月号 「本の森」より)