リサーチを重ね、丁寧に作成した企画書が通らない。書店に駆け込みノウハウ本をめくってみたものの、思いをうまく形にできない。企画をいかに立てればよいのか。実物の企画書満載の本書は頭を悩ますビジネスパーソンにとって「異色の教科書」になる可能性を秘めている。
著者はタレントとして広く知られているが、放送作家としても「天才・たけしの元気が出るテレビ‼」「風雲!たけし城」など多くの人気テレビ番組を担当してきた。こう聞くと、「一昔前の放送作家のノウハウ本」という印象を抱くかもしれない。
だが、本書を手に取ったら驚くはずだ。全262ページの約9割に、著者がこれまで書いてきた企画書やメモがそのまま掲載されている。著者の語りや関係者のインタビューは残りの1割にすぎず、非常に珍しい構成になっている。
本書の言葉を借りれば「誰にでもわかるIQが低い企画」が、これでもかと並ぶ。「四つんばいで生活出来ないのか?」「北海道の奥地に元気村をつくろう」「誰も興味のないソックリさん募集」などなど。まるで思いつきだが、それぞれに企画書が存在する。
そして、いずれの企画書も「短い」「易しい」「率直」という点が共通する。タイトルや最初の1行で興味を引きつけ、イラストを多用し、具体的な光景が読み手の頭に浮かぶ努力も怠らない。絵は決してうまくないが「棒人間」などを描き入れることで読み手に細かいニュアンスまで伝える。
つねに読み手を意識した構成には、令和の時代に書店に並ぶ指南書に書かれている「売れる」企画書の要素がちりばめられている。
とはいえ、コツをつかんだところで、企画が次から次に生み出せるわけではない。実際に企画に落とし込めるかはセンスの3文字で片付けられがちだが、著者は24時間ネタを考えて、思いつけばメモを残し続けたと述懐する。
ダメ出しをされたり、突き返されたりしても考え続ける。センスは持って生まれたものだと諦めがちだが、本当か。訓練で補える部分もあるのではないか。言葉にしてみると言い古された結論になってしまうが、「量が質を生む」を著者が証明している。
企画立案の視点で読んでも興味深いが、本書はテレビの黄金時代を支えた番組の資料としての価値が大きい。表現の規制が緩く、「特番一本で映画が撮れる」といわれたほどの潤沢な予算はクリエイターの素質を最大限に引き出した。
視聴動向にがんじがらめにされた様子はなく、コンプライアンス上の制約も弱い中、今までにない新しいコンテンツを見せたいという時代の空気が読み取れる。無駄を気にせず自由に発想し、時には無理を通す。そんな時代がテレビにもあった。
「昔の企画書に何の価値があるのか」とぼやきたくなる人もいるだろう。だが、著者の企画には今のネットコンテンツと重なる部分も多い。器がテレビからネットに変わっても中身はあまり変わっていない。環境が変化し「テレビはオワコン」と言われても、かつてのテレビのノリを求めている人は少なくないのだ。
テリー伊藤氏が本書を参考に「今ふうの装いにして出してみたら、採用されると思う」と語っているのが印象的だ。
※週刊東洋経済 2021年11月6日号