150人の聞き手が「東京にいる人、いた人、いたことのある人」150人の語り手から話を聞き、それぞれ一万字にまとめて本を作る。上下二段組、1216ページ、重さ1425グラム。前代未聞の試みだ。
聞き手が誰かはクレジットされているが語り手の多くは不明。読み進めていくと性別、年齢、聞き手との関係性が少しずつ判明していく。家族、親族、友人、仕事場の同僚など間柄が分かる場合もあるが、最後まで不明も多い。
語り手は喋りたいことを喋り、聞き手は促すだけ。本書のために募集された聞き手は、どれくらい「積極的に受動的」になれるか?という研修を受けたようだ。YES/NOチャートのように単純な問いを投げ、語り手の言葉を受け入れ「問わず語り」に徹する。
収録の順番にも法則性はない。男女比も曖昧だ。経験値が全く違うから、最初はジャンルの違う短編小説をひたすら読んでいるような気になる。個人的な体験で似ているのは公募の短編小説の下読みだ。面白いものものあれば退屈なのもある。だがやじ馬根性が勝ち、結局は読み通してしまう。ばかだなあとか、スゴっとか呟きながら、気になる箇所に付箋を貼りながら、寝転がっては読めないから時々立って腰を伸ばしながら、彼らの生活を覗き見し続ける。
やがてバラバラだった人生がいくつかの集合体に見えてくる。喋りたいことは概ね大っぴらには人には言えないことだ。
戦争体験や貧困など、たとえ親子でも初めて聞く話が多かっただろう。マイノリティを自覚する人の語りも熱い。そのせいかLGBTQの告白は多く、本書の中ではマジョリティだ。その集合の重なる部分がリアルな人生になっていく。
嘘か本当か、大言壮語か卑屈な言い訳か。150の生活は一冊の本の中でグラデーショナルに変化を遂げる。
気になるのはテレビマンユニオンの今野勉さんの聞き手「中島みゆき」さん。あの人なのだろうか?(週刊新潮10/14号)