『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は、こわいもの知らずのぶつかり稽古だ!

2021年9月27日 印刷向け表示
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自民党総裁選のニュースが連日報じられている。前回に比べれば、四人が立候補して政策論戦が交わされているのは望ましいことだ。しかし、報道はいつもどおり、政治内容そのものよりも政局に偏っている。政治は何のためにあるのか。それこそが重要問題であるはずなのに、真っ正面から問われることはあまりない。

ライターの和田靜香が、立憲民主党の衆議院議員である小川淳也にそれを問う。ん?誰やねん、その和田靜香と小川淳也って?と思う人がほとんどだろう。失礼ながら、確かに有名とは言いがたい。だからといって、面白くないとは限らない。それどころか、これほど活き活きして、わかりやすく、そして、魂に触れる政治対話はこれまでに読んだことがない。

和田靜香は湯川れい子のアシスタントになったのをきっかけに音楽ライターになったが、50代半ばの今まで定職についたことはない。相撲の大ファンで、自ら女子相撲の大会に出場したこともあって、職業は『音楽/相撲ライター」となっているのもある。かねてからファンでたくさんの本を読んでいる、といいたいところだけれど、金井真紀との共著『世界のお相撲さん』しか読んだことありません。スンマセン。ライター稼業のかたわらアルバイトをしてきたが、この本のタイトルのように「時給はいつも最低賃金」だった。

小川淳也、香川県出身の51歳。東大を出て自治省(今の総務省)に勤め、「なりたいではなくて、ならなきゃ」と、32歳にして代議士に立候補する。民主党から希望の党を経て立憲民主党に所属しているが、党内でさして「出世」しているわけではない。その理由のひとつは、5回連続で当選してはいるけれど選挙区での当選は1回だけで、あとの4回はデジタル相の平井卓也に負けているからだ。「政治家には向いてないんでないか?」と、その中で何度も問われるドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が、少なくとも一部では話題を呼んだ。

というバックグラウンドのお二人である。和田はもともと政治にすごく興味があってこの本が企画された、という訳ではない。『なぜ君は総理大臣になれないのか』に感銘をうけた和田がインタビューを申し込んだのがきっかけだ。

あきらめそうになるけど、あきらめない

この言葉に感銘を受けた「極端な性格と無鉄砲な行動で周囲を驚かせる」ことの多い和田は、「小川さんのお話を伺って本を書きたい」と手紙を書き、この本が生まれた。そして、最初からシャープな質問を次々と投げかけた。ようならば普通の本に過ぎなくて、面白くはならない。

自分が何がわからないのかも、どこから考えたらいいのかも、まったく分からないんです

と堂々と語る和田に小川は驚き、絶句し、下を向く。そらそうだろう。普通の政治家なら怒り出しかねないところだ。しかし、小川は違う。さすが、政治家に向いていないと問いかけ続けられるだけのことはある。不安に思っていることを書き出してください、そこからいっしょに考えましょう、さらには、いい本にしましょうね、とまで言ってくれる。むっちゃええ人やん!

こうして、こなた和田が「面談」と、かたや小川が「デスマッチ」と呼ぶ「インタビューとも議論ともディスカッションとも違う」なにものかが開始された。六章におよぶ内容は、人口減少、新型コロナ対策、社会の分断、税金の使い道、非正規雇用、最低賃金、移民問題、再生エネルギー、原子力発電、米軍基地などなど、本当に多岐にわたる。

内容については本を読んでもらうしかないが、どれもむちゃくちゃわかりやすい。小川の回答がシャープなのは当然として、和田の質問もパンチが効いている。なんでも、和田はそのために「毎晩3時まで勉強する」ような日々もあったらしい。残念ながら、何時に起きたかは書かれてないからどれくらい寝ていたかはさだかでない。

読み始めて驚いたのは、何も知らないはずの和田なのに、実にスムーズに言葉のキャッチボールが進められていくことだ。しかし、それは編集のあやというもので、実際にはそうではなかったらしい。「まっすぐ素早く伸びてくる『突き押し』」のような小川の言葉に「土俵の外に簡単に押し出された」と、相撲用語で説明されている。

それどころか、なんと、無意識に「うぎゃあ」とか「ええっ」とか「ひえええ」とか奇声を発し続けていたのが録音されていたというのがすごい。小川さん、イヤやったやろうなぁ、そんなデスマッチ。などと思ってはいけない。思ってしまいましたけど。

和田さんに分かるように話すことは大きな課題、国家的課題だから、政治家がやらなくてはいけないことだ”

国家的課題とはたいそうなという気がしないでもないが、政治家として素晴らしすぎはしないか。和田の最も印象に残っているのは、住宅問題について尋ねた時に、小川が「分からない」と言って謝ったことだという。それ以上に驚かされたのは、和田が繰り出したとある質問に小川が涙を流しながら答えるシーンだ。いかに国民を考えている政治家であるかに胸をうたれ、こちらまで泣けてきた。

幸せであるということについて、政治家はふだん話をすることがあるか、政治記者に聞かれることがあるか、という問いに小川は答える

一回もない。みなさん、聞かれるのは政局とか、目の前のこととかで

どすこいっ!政治記者、あかんやないか。しっかりせぇ。和田一人に負けてるぞ。

幸福を思い描きやすい環境に近づける。それができる可能性を秘めているのが政治だと思います

小川が「政治家にむいていない」のではなくて、政治の方がおかしいのとちゃうんか。

文字通りの涙あり笑いあり。和田靜香が小川淳也に挑むぶつかり稽古。いや、波瀾万丈の六番勝負だ。絶対に見逃せません!
 

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 映画はNetflixなどでも見られますが、その内容は本にもなってます。
 

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 和田靜香の相撲愛があふれる一冊。金井真紀との共著です。HONZでレビューを書きました。東えりかのレビューはこちら。

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