8月はコロナウイルス感染の急拡大、全国的な荒天等を受けて厳しい月になりました。8月は終戦の月ということで、例年は戦争関連本の動きが良くなる月でもあります。今年はどんな本が発売されていたのでしょう。先月出た本の売上ランキングから売場を見ていきましょう。
日販オープンネットワークWINから8月発売のタイトルとHONZのレビュー対象となるノンフィクションジャンルのタイトルを抽出しランキングを作成しています。(2021/8/1~2021/8/31の売上)
ビル・ゲイツの著書『地球の未来のため僕が決断したこと』なども順位をあげてきていますが、注目したのは『猫が30歳まで生きる日』です。
猫にとっては避けて通れない腎機能の低下。病気になる原因がわかっていなかったなか、腎不全の治癒の方法が見つかった!というのは大きなニュースになりました。このニュースは大きな話題になっていますが、この本は最新の研究現場の状況を伝えるもの。猫だけでなく、人間の病気治療にも大きな期待が寄せられている研究だけに注目が集まっています。読んだ人が、猫とこの本が並んだ写真を投稿しているのにもほっこりしました。
出版社名 | 書名 | 著者 | |
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1 | 講談社 | 『新型コロナワクチン本当の「真実」』 | 宮坂 昌之 |
2 | 徳間書店 | 『彼方への挑戦』 | 松山 英樹 |
3 | 集英社 | 『あなたを救う培養幹細胞治療』 | 辻 晋作 |
4 | 日経BP | 『ビジョナリー・カンパニーZERO』 | ジム・コリンズ |
5 | PHP研究所 | 『日本を前に進める』 | 河野 太郎 |
6 | 講談社 | 『学校ってなんだ!』 | 工藤 勇一 |
7 | 中央公論新社 | 『日本の先史時代』 | 藤尾 慎一郎 |
8 | 中央公論新社 | 『刀伊の入寇』 | 関 幸彦 |
9 | 文藝春秋 | 『筒美京平大ヒットメーカーの秘密』 | 近田 春夫 |
10 | 日経BP | 『LISTEN』 | ケイト・マ−フィ |
11 | 新潮社 | 『中国「見えない侵略」を可視化する』 | 読売新聞取材班 |
12 | 講談社 | 『自壊するメディア』 | 望月 衣塑子 |
13 | SBクリエイティブ | 『新説戦乱の日本史』 | 倉本 一宏 |
14 | 中央公論新社 | 『立花隆最後に語り伝えたいこと』 | 立花 隆 |
15 | 宝島社 | 『地形と地理でわかる戦国武将と名勝負・名城の謎』 | 渡邊 大門 |
16 | 青春出版社 | 『13歳からのキリスト教 | 佐藤 優 |
17 | 講談社 | 『食べる時間でこんなに変わる時間栄養学入門』 | 柴田 重信 |
18 | 秀和システム | 『一神教の終わり』 | ベンジャミン・フルフォード |
19 | 早川書房 | 『地球の未来のため僕が決断したこと』 | ビル・ゲイツ |
20 | 時事通信社 | 『猫が30歳まで生きる日』 | 宮崎 徹 |
他にも気になる新刊がたくさん!8月発売の気になった本を少しご紹介していきます。
ここのところ、ジェンダー問題を問う本の刊行が非常に増えています。そういった影響もあってか「実は女性がこんな活躍をしていた」という過去に光を当てるような本も増えて来ています。先日HONZでも話題になった『コード・ガールズ』などもそのひとつでしょう。これはウイスキーと女性の関係に注目した1冊。ウイスキーだけに関わらず、アルコールの発展には女性が多くの貢献をしていたのだと言います。一方で、禁酒法時代にアメリカを酒浸りにしたのも女性。この歴史を紐解きます。
海外旅行に行くことが出来ない世の中になり、旅行ガイドは壊滅的な打撃を受けました。でも、人の「世界を知りたい」という気持ちを止めることは出来ず、今はまた世界の名所を解説する本が動き始めています。こちらは世界中の奇習に注目した1冊。なぜこんなことに命を賭けてしまうのか、と言いたくなるような危険なものから意味不明なものまでたっぷり150の伝統行事が載っています。おうちにいながらの世界旅行体験をどうぞ。
先日逝去が報じられた哲学者、ジャン=リュック・ナンシーの著作です。今のコロナパンデミックを引き起こしたのは私たち自身の活動によるもの、と説くナンシー。コロナの時代との向き合い方について、2020年の春から夏にかけての論考をまとめたものとして、作秋発行されました。
著者は日系アメリカ人四世のジャーナリスト。戦後70年以上米軍基地と共生し、その存在について未だ対立が続く沖縄。この二極化の中では見えてこない問題や現実を沖縄に生きる様々な立場の女性の話を聞き歩くことで浮かび上がらせています。人々が抱える複雑な気持ちとは。戦後とこれからを考えるためには必読の1冊です。
トリイ・ヘイデンは1990年代に『シーラという子 虐待されたある少女の物語』の出版をきっかけに日本でも大きなブームをつくったノンフィクション作家です。様々な傷を抱え、問題を抱えた子どもたちの記録は世界中に衝撃を与えました。大ベストセラーとなった『シーラという子』などの初期作は今年新版として文庫化され読み継がれています。そのトリイ・ヘイデンの16年ぶりの新作がこの『うそをつく子』。「愛着障害」という問題を抱えたうそをつくジェシーとトリイの関わりの先には何があるのでしょう。
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コロナウイルスについて、コロナ禍後の社会を考える本が多く出版されています。一方で、女性やジェンダー、多様性について考える本も非常に増えています。多くの人がこの問題に触れ、興味を持ち社会が変わっていくきっかけをつくる。というのも「本」の役割なのだと感じています。よい本との出会いがありますように。