本書の著者ファリード・ザカリアは、米CNNの報道番組「Fareed Zakaria GPS」のホスト役を務めている。同時に、ワシントン・ポスト紙のコラムニストを務めるなど、ベストセラー作家であり世界的コラムニストである。
米マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツが今回の新型コロナウイルスのようなパンデミックを、2015年のTEDトークで警告していたのは有名な話だ。そして実は、ザカリアも17年に自らの番組で、世界的感染爆発は米国が直面する最大の脅威であるとし、備えの遅れに対して警告を発していた。
その彼が、パンデミック後の世界をどう読むべきなのか、その中でわれわれはどう生きるべきなのかを示したのが本書だ。ザカリアは、プラトンからホッブズ、カント、マルクス、ウェーバー、ケインズに至るまで、古今東西のあらゆる思想家の言葉を織り交ぜながら、10の教訓を提示する。それらを整理すると、次の通りである。
まず、「シートベルトを締めよ」「グローバリゼーションは死んでいない」「市場原理だけではやっていけない」といった章では、資本主義の拡大とグローバリゼーションの進展によって、現代社会が極めて不安定化している事実を突きつける。
次に、今回のパンデミックによってそれがさらに加速し、「不平等は広がる」という。「アリストテレスの慧眼──人は社会的な動物である」「ライフ・イズ・デジタル」「二極化する世界」の章においては、コロナ後の世界像を、米中が世界を二分し、都市への人口流入の継続と生活のデジタル化が同時に進行するものとして提示している。
そして、今、必要なこととして書かれたのが、「人々は専門家の声を聞け、専門家は人々の声を聞け」「重要なのは政府の『量』ではない、『質』だ」「徹底した現実主義者は、ときに理想主義者である」だ。垂直的な国内社会においても、水平的な国際社会においても、人々が一層協調を深め、それを通じてより賢明な選択をするようザカリアは訴えている。
そのうえで、最終章では、「人間を、社会を、そして世界をどちらの方向へ向かわせたいのか、それを決めるのは人間だ」という。ザカリアは、「人間は自分の歴史を作る……だが、好きなように作れるわけではない……すでに目の前にある、与えられた環境、過去から受け継がれてきた環境のもとで作るのだ」というマルクスの言葉を引用して、だからこそリーダーは歴史を学ぶべきなのだと続けている。
これは、ユヴァル・ノア・ハラリが近著『緊急提言 パンデミック』で強調した「コロナ後の世界を決めるのはわれわれ自身だ」という結論と共通する。コロナ禍により人々が旧来の固定観念から解放された今こそ、実は、新しい社会を築くチャンスなのだ。
ザカリアは、「この残酷なパンデミックが、変革と改革の可能性を作り出している。新しい世界への道は開かれた。その機会をつかむか、ふいにするか、それは私たちしだいだ。運命は決まってなどいない」という言葉で、本書を締めくくっている。未来を決めるのはわれわれ自身であって、新型コロナではないのである。
※週刊東洋経済 2021年2月13日号