ミャンマーはタイと同じ敬虔な仏教国というイメージが強い。2011年には軍事政権から民主政権に移行した。長い軟禁状態から解放されたアウンサンスーチーが16年に国家顧問となって政権の中枢に立ち、昨年の総選挙では与党が過半数を獲得したことは記憶に新しい。
13年にヤンゴンに新聞記者として駐在していた著者は、情報省の中堅幹部との会談で「テインセン大統領の誕生日を確認できない」と愚痴をもらした。答えは「国家指導者はアウラーンを恐れているから決して生年月日を明かさない」というものだ。
ビルマ語のアウラーンとは黒魔術のこと。呪詛を恐れ政治指導者たちの誕生日は最高機密で、さらには政権運営に占星術が大きく関与しており、数秘術や呪術によって物事は決められていくという。
本書は「政治とおまじない」を軸に二十世紀末からの、ミャンマーの政治的な出来事を四つの項目に分けて取材したルポルタージュだ。
第一章は著者の愚痴から始まった「誕生日は国家機密」。当時の大統領テインセイン氏の占星術顧問ペニャン博士へのインタビューは緊張感に満ちている。
第二章は民政移管後初の総選挙の折に予言された、アウンサンスーチー大統領就任説の出どころだ。本人は占星術を信じていないと言われるが、彼女の動向は常に大物占星術師によって占われていた。また側近である医師も占いに精通しており、助言をしていたという。
第三章は05年から06年に国際社会に対し極秘に行われたヤンゴンからネピドーへの遷都だ。その背景には当然占星術か関わっていた。
最終章では02年に起こったクーデター未遂事件を追い、ミャンマー現代史を読み説いていく。
独特な政権運営だが、どこか納得できるのは日本も同じ占い大国だからだろうか。占星術師同士の諍いなど、平安時代の陰陽師を彷彿とさせる。コロナ禍が落ち着いたら、行ってみたい国のナンバーワンになった。(週刊新潮1月28日号)
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2004年に小説家の船戸与一(探検部先輩)とともにミャンマーに入った高野秀行。彼らの行動は常に監視されていた。軍事政権下のミャンマーはまるで江戸時代のような武家社会。彼らは隠密たちに監視されていた。爆笑必至だが、『黒魔術がひそむ国』の後に読むと、何と上手い比喩だろうと感心します。