今年も1年を振り返る時期がやってきた。多くの人にとって、新型コロナウイルスにまつわる出来事が記憶に刻まれた年だったことは疑う余地もない。しかし、「コロナ」はそれだけじゃないとばかりに登場したのが、本書『コロナマニア』だ。
もちろん「コロナ」に関する本ではあるが、ウイルスについての本ではない。本書には、「コロナ」を名前に含む国内外のお店や企業がズラリと並ぶ。事業の紹介やGoogleMapの画像、WEBサイトのサムネイルなどが、まさに「3密状態」でラインナップされた一冊だ。
そもそも「コロナ」はラテン語の「冠」という言葉に由来し、高貴さや権力を示す冠、輝かしいエネルギーに満ちた太陽を想起させる言葉だったと言われる。それと関係があるのかはわからないが、こと国内に限ってみれば、コロナを店名に含んだ美容院や理容室は非常に多いという。
輝かしい未来を願って命名されたに違いなく、これほどの規模の風評被害を受ける日が来ようとは誰も予想しなかっただろう。加えて、自粛期間中はより苦しい状況だったのではないか。頼みの綱はインターネットでの集客だが、「コロナ」を検索すればウイルス関連の情報ばかりが表示される状況では難しい。自店・自社を検索するエゴサーチも機能せず、長年尽力してきたSEO対策すら意味をなさない状況に陥ったはずなのだ。
そんなダブルパンチに、彼らはどのように立ち向かおうとしたのか。リストの行間から想像しただけでも、思いがこみ上げて胸が熱くなる。
また本書は、表記の細かな違いや別名に対する目配りにも余念がない。なにかとコロナ関連の騒ぎが続いた愛知県にある安城コロナワールドは、Corona WorldではなくKorona Worldだし、アメリカのケーブル製造会社COVIDに関する記述もある。
このテーマだけで最後まで行けるのかと最初は心配にもなったが、第4章「地名」、第5章「歌手・バンド」では、ビジネス用のデータ分析ツールを駆使したリポートをリストの合間に無駄に挟み込んでくるなど、読者を飽きさせる気配はない。
さらに、AV業界や風俗業界のコロナにも話は及ぶ。源氏名「ころな」姫のゆく末や、1980年代前半のAV黎明期に作品を制作していた二線級AVメーカー「コロナ社」の追跡など、ただでさえ哀愁の漂う話題に時事性も加わり、味わいが深くなる。
著者はセミリタイアしたプロ無職にしてコロナコレクターを名乗る岩田宇伯氏。『中国抗日ドラマ読本』の著者として知られるだけあり、最後は中国コロナキャンペーンソングや便乗ソングバンドの紹介といった、B級感たっぷりの話題で幕を閉じる。
誰もが知るテーマを、「集める」「分類する」「取材する」。そんな王道の手法を使いながらここまでの珍書ができるのかと、素直に驚く。
新型コロナウイルスはまだまだ猛威を振るっているが、必ずいつかは終息の時が来るだろう。そのときに明るく振り返るためにも、今年中に必ず本棚に加えたい一冊だ。賢人の提言が寄せられたコロナ本もよいが、その隣に本書を並べれば、シュールでより一層魅力的な本棚となるだろう。
※週刊東洋経済 2020年11月21日号