8月に発売になった『同調圧力』(鴻上 尚史, 佐藤 直樹)が好調です。店頭に並び始めた8月20日前後から一気に売上を伸ばし、重版を繰り返しながらもまだまだ品切れ店が多い状態が続いています。サンプル数が少ない中ではありますが、首都圏と比較すると地方での出足が良いといった傾向が見えています。
『同調圧力』というキーワードはコロナ禍以降よく耳にするようになりました。Googleトレンドで注目度を見てみると一目瞭然でした。特に3月の一斉休校、自粛要請あたりからは常に高い注目を集めるキーワードとなっています。
ではどんな方が手に取っているのでしょう。読者層を見てみます。
約8割が男性の読者で、60代を中心に売れています。今のところは新書としては平均的な読者層と見ています。自粛警察という動きや風評被害、感染者差別の問題など、コロナを取り巻く人の心の問題にも注目が集まる中、今後どういった層に拡大していくのか注視していきたいところです。
併読本ベスト10を見てみます。『同調圧力』の購入者が2020年1月以降に購入した本のランキング上位商品は以下のとおり。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『還暦からの底力』 | 出口治明 | 講談社 |
2 | 『なぜ日本のジャーナリズムは崩壊したのか』 | 望月衣塑子 | 講談社 |
3 | 『サル化する世界』 | 内田樹 | 文藝春秋 |
4 | 『空気を読む脳』 | 中野信子 | 講談社 |
5 | 『知的再武装60のヒント』 | 池上彰 | 文藝春秋 |
5 | 『コロナ後の世界』 | ジャレド・ダイアモンド | 文藝春秋 |
5 | 『貧乏国ニッポン』 | 加谷珪一 | 幻冬舎 |
8 | 『近現代史からの警告』 | 保阪正康 | 講談社 |
8 | 『ペスト』 | アルベ−ル・カミュ | 新潮社 |
8 | 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 | ブレイディみかこ | 筑摩書房 |
全体的に新書が多め。特に1位となった『還暦からの底力』など講談社現代新書の動きが目立ちました。
併読書を内容面から見てみると、コロナ禍に関連した本が多く手に取られているようです。コロナ後の世界や生き方を考えるという内容の本が新書で出版されているというケースが多いこともその一因かもしれません。
それでは読者の併読本の中から注目の本を紹介します。
人気のWeb連載の単行本化。図鑑なので、ヒトが生態別に分類されて分析されています。これを読んで笑っていられるかどうか…は置いておき、昨今の男女の生き様が具体例とともに語られています。ちょっとすかっとしたいときにオススメしたい1冊。
事件から4年が経過し、3月に死刑判決が確定したことで、相模原事件の関連書籍が増えてきています。裁判の傍聴を通じ、著者が見たものとはなんだったのか。植松死刑囚の考えていたこととはどういうことだったのか。歪んでしまった正義感はどこから産み出されたものだったのか。コロナ禍が引き起こす、高齢者と若者、弱者と強者の分断を前に私たちが考えておくべきテーマの一つです。
コロナ禍は「暮らす場所」についてじっくり考える機会を与えてくれました。都心部から郊外へ、人の流れが変わりつつあります。しかし、著者が注目したのは東京北部。
東京都民にとっては、今は絶好の街歩きのチャンス。この本を片手に、東京北部の歴史や魅力をひもといてみてはいかが?
生物ジャンルからはこの1冊を。クワバカとはその名の通り、クワガタに人生を捧げ過ぎちゃった人たちのこと。愛し方も闘クワガタだったり、昆虫採集だったり、形は色々ですが昆虫愛に溢れた登場人物が出てきます。そしてその人達を取材している著者もいつしか… 香川照之の「昆虫すごいぜ!」を見て、少年の心を思い出した大人達に届けたい珠玉の昆虫ノンフィクション。
併読書の中でも上位に入っていたこちらは現代社会では遠い存在となった暴力や暴動について考える本です。
一揆や焼き打ち、虐待といった事件は物語の中の話ではありません。いったい、民衆をそこまでの暴力に駆り立てたものはなんだったのかを読み解きます。言論による暴力が問題になる昨今、過去の出来事に目を向けておく必要はあるでしょう。
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今回は最近の新書の話題作を多くチェックしましたが、まさに新書は時代を映す鏡。今を読み解くタイムリーなネタが続々と出版されてきています。本格的な学問の入り口として、ちょっと空いた時間にパラパラと読む1冊として、新書コーナーに立ち寄って気になる本を探してみませんか。