「鳥本にハズレなし」というのが私の持論である。鳥の生態が興味深いのは確かだが、それ以上に鳥類学者にはユニークな人が多い。
『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』(新潮文庫)の川上和人、『ダチョウの卵で、人類を救います!』(小学館)の塚本康浩など真摯な研究者が真面目に書いた本ほど面白い。
本書の著者はカラス研究者。『カラスの教科書』(雷鳥社、のちに講談社文庫)の単行本が上梓された時には、まず厚さに驚愕し、一読して、そのカラス愛の熱さにクラクラした。いつの間にかカラスは可愛いかも、と思えるようになるから不思議だ。
都市部ではどこでも見かけ、ゴミを散らかして嫌われるカラスだが、本当に嫌な奴なんだろうか。飼ったらかわいいんじゃないか?食べたら美味しいんじゃないか?そんな疑問に本書でも丁寧に答えてくれる。ただし、そんなことを真剣に考える人は少ないと思うけれど。
カラスが好きで研究している著者は、当然のように他の鳥も好きだ。鷹やフクロウは言うに及ばず、絶滅してしまったドードーや日本では一部でしか見られないカササギ、世界中で食用にされるニワトリの秘密まで明かしてくれる。渡り鳥のメカニズムや台風の後に見られる迷鳥の話など、ぐいぐいと引き込まれる。
カラスは賢いと思っている人が多いだろうが、実は全部がそうでもないというのも初めて知った。街なかで見られるカラスはハシブトカラスとハシボソカラスの二種類で、車に木の実を轢かせて食べるような器用なやつはハシボソなのだそうだ。
攻撃されると言っても、子どもを守る時だけ後ろから蹴飛ばすくらいというが、私は小学生の時に頭を突かれてヘヤピンを持っていかれた経験がある。あれは何だったのか。
カーラースなぜ鳴くの。カラスの勝手でしょー、と歌った志村けんの訃報を聞いた日に本書が目に留まった。何かの暗示なのだろうか。(週刊新潮4月23日号)
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東えりかの鳥本オススメの3冊
1998年、アメリカで行われた競技バードウォッチング(年間に見た種類の数を競う)の狂乱を描いたノンフィクション。この年天候が不順で台風が多く、迷鳥が多かったため、命を賭してアメリカ中を渡り歩く。こんな競技があったのか、と驚くとともに、平和な時代が存在していたことを思い出させてくれる本。
国内のニッポニア・ニッポンが絶滅するまでの長い歴史を詳細に綴った一冊。この本の後、中国からペアがもたらされ人工繁殖。それがうまくいき、現状、野性にも生息できるようになった。
日本のライチョウは人を恐れないのはなぜか。ライチョウの研究者の熱情が伝わる。HONZのレビューはこちら