ペンシルベニア大学教授のアダム・グラントは、人間を「ギバー(人に惜しみなく与える人)」「テイカー(自分の利益を優先させる人)」「マッチャー(状況によってギバーにもテイカーにもなる人)」と3種に分類した。そしてギバーこそが、成功者になれることを実験と調査で明らかにした。
本書は実際に徳を積むことで、どれだけ自分が得をするかを、渋沢栄一や土光敏夫など偉人から検証できる。「情けは人の為ならず」とは、めぐりめぐって自分に恩恵が帰ってくる意味であり、そのことを面白く学ぶことができる。
面白く、と言ったのは本書が徳について論じているとはいえ、著者が酔いどれ研究家としても定評があるためだ。偉人を調べた本人が「そんなの無理だろ」とツッコミを入れながら解説している。そのため、文体も居酒屋にいるような雰囲気を醸している。
徳というジャンルにフォーカスしてはいるが、スピリチュアル(精神的)な主張を押し出すわけでもない。全編を通して説教臭くもない。きっと20代でも読めば楽しめるだろう。
著者は経済記者でもあり、経営者を何度も取材・調査しているため、その参考文献と徳への分析は目を見張るものがある。ほとんどの経営者が一同に自分の会社に「子(し)、曰(いわ)く…」などといったありがたい金言を掲げている事実も興味深い。
また国ごとの人助け指数を表した「World Giving Index」という、イギリス機関による調査結果がある。残念なことに2009~18年の10年間のデータで、日本は128ヵ国中107位であった。さらに「見ず知らずの他者を助けたか」の項目では最下位だった。
本書はオーストラリアの旅行中に読んでいたが、この事実を知りコアラ数万匹が焼け死んだオーストラリア森林火災の消防サービスに寄付をした。
もしかすると徳についての正しい知識を得ることで、何かを与え合う理想的な世界に近づくのかもしれない。
※信濃毎日新聞より転載 1月26日