たかのてるこ、『生きる』シリーズ第二作である。たかのてること言われてもピンとくる人は少ないだろう。しかし、『ガンジス河でバタフライ』の原作者といえば、一定以上の年齢の人にはイメージがわくかもしれない。長澤まさみ主演のテレビドラマになったノンフィクション旅行記である。
大阪の超名門・北野高校から日大芸術学部へ進学。「人にどう見られるかばかりを気にしてしまう、『小心者』の自分を変えたい一心で、ありったけの勇気を振り絞り、アジア一人旅を決行!」(たかのてるこオフィシャルサイトから)した時のエッセイ集が『ガンジス河でバタフライ』だ。
たかのてるこが長澤まさみに似てるかどうかについてはコメントを控えさせていただくが、なんでも日大の準ミスに選ばれたことがあるらしい。ホンマですか、という気がしないでもないが、これもさておく。
以来、たかのてるこのファンだったかというと全くそんなことはない。去年、インドの最北部、インダス川源流域のラダックへ行った。インダスといえばガンジス、漫才コンビみたいなもんである。ふと『ガンジス河でバタフライ』のお姉さんはどうしたはるんやろうかと気になった。帰国してからググってみたら『ダライ・ラマに恋して』という本がある。ラダックはチベット仏教で、毎年、ダライ・ラマが滞在されると聞いたばかりだった。何かのご縁かと読んでみると、やたらとおもろい。
なんせ、人生最悪の大失恋から立ち直るため、ダライ・ラマ会いに行こうと決意したという。どこまで勝手な発想なんですか…。さすがに無理やろそれは、と思うのは常人の浅はかさアカサタナ。特段のコネもなかったのに、最後はダライラマとの面会がかなう。という、ウソみたいな旅行ドキュメントだ。予想していなかったのだが、その主たる舞台はラダックだった。
おぉ、ラダックやんか。人はそれを助平根性というかもしれないが、こういう予期せぬ偶然があると、つい気になる性分である。そんな折りに見つけたのが『生きる』シリーズ第一作の『生きるって、なに?』出版記念トークショーのお知らせだった。義太夫の兄弟子でもある落語家・桂南光師匠との対談なので、面白くないはずがない。
これまで見たことのない女の人がそこにいた。いや、見たことのない人間といってもいい。こんなにテンション高く話す人を間近に見たのは男女問わず生まれて初めてだった。南光師匠もたいがいのテンションだが、完全に上回っていた。それに、南光師匠のとんでもない下ネタに食らいついて離れないのが壮絶だった。感動したので、本を買ってハグしてもらった。力強くてちょっと汗臭かったけど、嬉しかった。
その『生きるって、なに?』は、教えている大学の学生に「生きる意味がわからない」との悩みをうち明けられたのをきっかけに作られたフォトエッセイ集である。世界各国の幸福そうに生きる人たちの写真とともに、生きることについてのコメントが連歌のように続けられていく。結論はこれだ。
生きるとは
むずかしいことを考えず
「いま」を楽しむこと!
そのあとがきによると、ガンジス河でバタフライをした初めての海外旅行で、「生きている実感」を得て、「自分の欠点は全部、長所なんだ!」と感じるようになったとある。異常なまでのハイテンションは、その自己肯定から生まれたようだ。う~ん、意外にも、先天的なものではなくて獲得形質やったんか。
『生きるって、なに?』が論理編(というほどでもないが)とすると、今回の『逃げろ生きろ 生きのびろ!』は実践編である。最初の問いは前著と同じで「生きるって、なに?」からだけれど、今度の本では、そのために何をすべきかが、やはり連歌のようにつながっていく。たとえば、
たくさんの人と仲良くすることよりも
大事なのは自分自身と仲良くすることです
自分自身と仲良くできていれば 人生は何の問題もない
確かにそうだ。そして、そのためには、
人からどう思われるかの“恐怖心”ではなく
自分が愛から生まれ 愛で育ったことを忘れずに
“愛”で生きること
というように続く。愛は『生きる』シリーズ最大のテーマで、『生きるって、なに?』でも繰り返し述べられている。
そんなん読んだだけで元気になるのか、と思う人は、だまされたと思って、この二冊のうちの一冊でいいから手に取ってみてほしい。たかのてるこの霊が乗り移ったかのように元気になれるはずだ。それはそれで、ちょっと怖いような気もするが…
文章もいいけれど、写真も素晴らしい。世界中の人たちの元気な笑顔を見ているだけで、元気がわいてくる。カメラを向けた時にこれだけの笑顔をしてもらえる、というのが、たかのてるこの必殺技だ。
幸せは、“自分の心の状態”であり、
“自分自身が感じるもの”
言い古されたことではある。わかっちゃいるけど、なかなかそう感じられないのが問題なのだ。だが、この小さな本を読むと、たかのてるこに力強くハグされるがごとく、強烈にそう納得させらる。
ご本人が書いておられるように「トイレ常備がイチオシ」かもしれない。毎朝トイレでこの本を見れば、今日も一日笑顔で暮らし、幸せに生きないと損だという気になるはずだ。まぁ、べつにトイレでなくてもええんですけど。
自分への愛が増えることで、
すべての人、すべての生き物への愛も増えて
地球に愛の成分が、もっと増えることを祈ってます
あとがきにある最後のメッセージがこれだ。チベット仏教では、生きとし生けるものがすべて幸せに暮らせますように祈るという。たかのてるこ、ひょっとしたら、ダライ・ラマが愛を授けるために日本に送り込んだエージェントかもしれない。絶対ちゃうと思うけど。
『生きる』シリーズ第一弾。最初は自費出版だったのが絶賛のベストセラーに!
こんな旅してみたい、と思ってもなかなかできなさそうにない旅の記録。
たかのさんとわたしをつないだ(?)運命の一冊。たかのさんの奇跡的な強運には驚かされます。